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author 米 [write]

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ペットなだけじゃいられない


(きみぺ。パロもどき花主:犬村の欲求)

ある雨の夜、オレは一人ぼっちで目が覚めた。
見知らぬその場所は真っ暗で光も何もなくて、屋根もないその隙間に身を隠しながら雨に濡れ、寒さと空腹と孤独にただひたすらに震えていた。オレはここで死んでしまうんだ。漠然と湧き上がったその考えに無性に泣きたくなって、鼻を鳴らせばやがて人が来た。

その人はとても綺麗な人間で、性別は男だったけどまるでそんなの関係がないくらいにオレは一目でその人を好きになった。そっとオレに近付いて濡れた顔を拭いてくれたその人は更には泥だらけの身体を躊躇なく抱き上げて笑いながら「一緒に帰ろう」と言ってくれて、自分の名前しか分からないオレにも新しく名前をつけてくれた。

陽介。
それがオレの名前。ヨースケって言う単純な名前からちゃんと意味のある名前に生まれ変わらせてくれた。あったかいお日様みたいに人を明るくして助ける。その意味をくれた人は、葵。オレの大事な大事な、大好きなご主人様だ。



その劇的とも言える出会いから数日。オレは晴れて葵のペットになった。
雨に濡れて泥だらけだった身体は葵の住むマンションに連れて帰られてすぐに洗われて、湯気のこもるバスルームで冷え切った身体を温かいお湯で清められるのはとても気持ちが良かった。泡立てられた真っ白な泡がオレの身体をもこもこに覆い隠して顔だけがひょっこりと覗く。そんな自分の変わり果てた格好に壁に掛けられた鏡を見ていたオレはなんとも奇妙な感覚を覚えていて、同時に興味津々だったので夢中になってみていると、そんなオレを丁寧に洗ってくれていた葵はくすくすと笑って見下ろして「もう少し我慢しててくれよ?」と言いながらそっとシャワーを身体に当てて泡ごと汚れを流していった。
それからはブォーとドライヤーとタオルで毛を乾かされついでにブラッシングもされ、出会った時にはきっと想像もつかなかっただろう見違えるような姿にオレは戻り、そのツヤツヤと飴色に輝く身体を自分でも誇らしくて嬉しくて、何度か吠えて尻尾をばたばた振ると葵に擦り寄った。

葵は綺麗になったオレを見て「結構男前じゃないか」と抱き上げて笑って、湿った鼻先にチュッとキスをした。オレはびっくりして耳も尻尾もピンと立てたけどそれは嫌とかそんな気持ちからじゃなくて、大好きな葵にこんな熱烈なアプローチ(だと思いたい)をされたのが夢のようで驚いたオレに葵はまた柔らかく笑うと「陽介にはまだ早いかな」と言って抱っこされたままどこか(リビングと言うところだった)に連れて行かれてそれからご飯をくれた。ちなみにその日食べたのは葵手作りの肉と野菜とご飯を一緒に炒めたチャーハンだった。犬のオレには人間と違って食べちゃいけないものが多いから、これなら大丈夫だろうと動物好きらしい葵がわざわざ考えてくれたのだ。(なんて優しいんだろう!)穴が開きそうなくらい空腹だったオレはそれが余計に美味しそうに見えてガツガツとがっついて食べていたが、床に落ちた食べクズを見て葵は眉を少し寄せながら笑っていたから多分綺麗好きなんだろうな。(勿論察しが良いオレはそれもきちんと食べたさ)

葵はオレがご飯を食べ終わると頭を撫でてふかふかの毛布を被せてくれた。元気は出て来たようだけど念の為、近々獣医なる場所に連れて行くらしい。その時のオレはそこがどれだけ恐ろしい場所か知らなかったのでぬくぬくと温かい毛布に包まって寝てしまったのだが…これからはオレの居場所はここなんだと教えられた安堵感から何も疑わずにいたのだ。葵もそれを分かっていたのか敢えて何も言わずにその後はベッドで寝た。
獣医と言う場所と人物が俺たち動物にとってある意味一番の天敵だと思い知るのはその翌日だった。

「はーい。いい子だから動かないでねー。すぐに済むからチクッとするだけ、そんなに痛くないし」

「…ッ!!?キャッキャン!(し、死ぬ…!!葵っ助けてくれ…!)」

「ごめん陽介、本当にすぐに済むから大人しくしていてくれよ」

「ウー…ッ(そ、そんな!)」



そして、件の獣医に連れて行かれそこで悪夢にも似た体験をしたオレはぐったりとした身体を葵に抱かれて帰宅した。帰宅途中いろいろと買い物があったようで大きな建物(スーパーと言うらしい)に入って葵はそこで、これからのオレの餌やペットシーツなるもの(要は屋内で飼う犬のトイレだ)、リードに首輪と言ったものを買い込み、出て来た時にはそれなりの荷物だったがまだ身体を弱々しく沈ませていたオレを苦笑しながら抱きかかえて帰った。…が、その日から葵のスパルタ並の躾がオレを暫く鞭打ったのは言うまでもなく。

なんでも学生と言うものらしい葵は平日の日中は学校と言う場所に行かなくちゃいけないらしくて、その間オレが変に暴れたり隣の部屋に住む人に迷惑を掛けないようにだと言うことらしいが正直オレはそれだけじゃない気がする。なんと言うか…まぁ、葵は自覚はないみたいだけど人間で言うところのマナーってのを厳しく見てるようだから。
けど今じゃオレも葵に怒られないようにと餌は零さずにゆっくり食べれるようになったしトイレもきちんと場所を区別して出来るようになった。ただオレの寝床は少しわがままを押して、葵が寝る寝室のフローリングにお気に入りとなった毛布を敷いて寂しくないようにと移動してもらい、寝付くまで葵の傍ですんすんと鼻を鳴らして甘えた声を出してみたりもする。すると葵は厳しい時もあるけどやっぱり優しいとこの方が多いから、たまにベッドの中にも入れてくれるのだ。オレはそれに味を占めて何日か連続で一緒に寝ようと試みたがそれを見抜かれたのか、葵はオレの寝床は違うだろうと軽く窘めたのでその野望は儚くも散り去った。(週に一度や二度は許されてるが)何より葵に飼われ始めて比較的小柄だった体型はすくすくと成長し、本来あるべき体つきとやらになったようなので潜り込んでいたベッドも気を抜いてごろごろするとべしゃっと間抜けな音を立てて滑り落ちてしまう羽目になった。(おのれ…これならまだガキの体型だった方が葵に抱っこされたり美味しい思いが多かったのに)

「陽介、それじゃあ行って来るよ」

「ワン」

そんなこんなで今日もまた朝が来た。
いい子でお留守番してろよ、と早朝から「学校」に向かうべく身支度を整えた葵は脇に学生鞄を挟んで革靴を履きながら玄関先まで名残惜しくも見送りに立つオレの頭を撫で、思わず漏れてしまうキューン…と言った未練タラタラな鳴き声にも少し困った笑顔を浮かべるだけでなるべく早くに帰るからと朝の日課となった行って来ますのキスを身を屈めてオレに与えてくれ、それだけでぶんぶんと簡単に機嫌の直ってしまうオレはなんと単純なことだろうか…。だが葵を困らせたくはないし、何よりこうして毎朝で掛ける度にキスをしてくれ帰って来た時には飛び掛かるように出迎えるオレを優しく抱きとめてただいまの抱擁とキスをくれるのだから、それが何よりの喜びと感じているオレは暫しの我慢をせねばならない。腐っても主人には忠実な犬の血を引いてるのだ。オレは千切れんばかりに尻尾を振りながらもゆっくりとお座りをして葵を見上げる。葵のいない間にこっそりと見ているテレビ番組で養った知識で言うならば、これはさながら会社勤めをする夫を見送る妻のようだ。(俺も葵もオスだけど。って言うかオレが人間でも嫁はどっちかって言うと葵の方だろうな。うん)

「そんなに寂しそうな顔するなよ。今日はちょっと友達に勉強教えなくちゃいけないから遅くなるかもだけど…でも終わったらすぐに帰ってくるから」

「クゥン…(友達?勉強?…あぁ、あのいけ好かないオレと同じ名前の人間か)」

「じゃ。行って来ます」

「ワン(行ってらっしゃい)」

ぱたん。

「…クゥーン……」

(あぁチキショー、マジ人間になりてぇ…。いや、犬じゃなかったら葵に出会えなかったし一緒に寝たり飯食ったり風呂入ったり寝顔こっそり見たりとか出来なかったろうけど…!)

葵を見送ってやがて閉じられたドア。オートロックとか言う防犯性の高い機能がついてるらしくこればかりは俺がどれだけ賢い犬(自称)だろうと解除することは出来なくて、つまり家主の葵が帰って来なければ開けられない仕様となっている。
オレは1LDKの部屋にたった一匹取り残されて、今日もまた葵の帰りを待つ他ない。しかも葵が出て行く前に聞かされた話がぐるんぐるんと頭の中を何度も回って回って、顔こそ一度も見たことはないがオレと同じ名前らしい葵の友人らしき男が勝手に想像されてそれに悩み悶える。これは勘だが、かと言って馬鹿にしたものではない筈だ。恋する気持ちに人間も動物もない。葵の友人で、オレと同じ名前の「よーすけ」。(陽介と呼びたくないのはそれはオレだけの、葵がくれた大切な名前だからだ。…と言うかそいつがどう言う字で名前を書くのかそもそも分からない為でもある)そいつもきっと葵がオレと同じで好きなんだ。ただ決定的な差と言うものがあってそれはオレが犬であって、人でないこと。そいつもまた、葵と同じ人であって、オレとは違って犬でないことだ。

あぁもう、どうしたら良いんだ。オレはあの夜の出会いからずっとずっと葵が好きだ。それは家族や友愛や主従愛じゃなく、れっきとした恋愛としての意味で。だから葵が親しい人間は女も男も関係なく妬くし、ムカつく。けどオレは人じゃない。人の言葉は理解出来ても、言うことは出来ない。葵をこの腕に抱こうともこんな四本足で闊歩するふさふさの手じゃそもそも無理な話。
葵がもし誰かをここに連れて来てもオレはただのペットとして見てるしかなくて、もし葵が襲われたとしても(男の葵が教われる可能性を考えてしまう辺りでもう末期だった)ただ唸ったり噛み付いたりするだけで何も出来ない。
…葵を抱く腕が、葵を守る力が、葵のことをちゃんと人の言葉で呼べる声が、公平な目線で見つめられる背が欲しい。葵に単に可愛がられるだけじゃ、最初から好きになってたオレにはつまらなくて不満だと思うようになるには時間が掛からなかった。

「…ウー……」

葵。葵。葵。
もしかしたら葵はオレじゃないオレと同じ名前の人間を好きになって、そいつに取られてしまうかもしれない。そんなの嫌だ。葵のことだからオレを途中で捨てたりはしないだろうけど、ただのペットと飼い主じゃ逆にオレから逃げた方が楽だ。



いるのかも分からない神様。
オレを葵と同じ人間にしてください。葵を愛することの出来る身体をオレにください。

お願いだから。

ットなだけじゃいられない
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2008.11.28(Fri)





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