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author 米 [write]

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オレはペット。キミのペット。


(きみぺ。っぽい犬花主)

オレはヨースケ。犬だ。それ以外は何も知らない。
オレは気が付けば「外」にいた。雨の降りしきる静かな夜に、街灯の光さえも届かないような物陰に身を潜ませて隠れ、寒さにふるふると震える身体を更に窮地へと追いやるような空腹の腹を必死に堪えて。そしてクーン…と誰に呼び掛けるでもない、ただか細く漏れてしまう鳴き声だけが狭い壁の間に反射してオレの唯一の「話し相手」となっていた。(あぁなんと寂しい光景だろうか)

季節は春。(うつ伏せになって虚ろな目で見つめた視線の先にあった水溜りに小さな花弁が二枚三枚と落ちていたから、きっとこれはサクラで、そして季節も春に違いない)とは言えまだまだ夜は冷え込み、雨が降ればいつもの満天の星空を重たそうな黒い雲が覆い隠してしまってそこから冷たい雨粒を降らす。犬の身体はある程度の寒さでもそれなりに生きていけるように温かいものだが、生憎と気が付けばここにいたオレはその時から腹を穴が開くほど空かせて動けずにいて、常時吹きつける冬を抜けたばかりの風にも長く晒されすぎたお陰で体温も体力も下がるばかり。
こんなこと、これまでの記憶がオモチャ箱をひっくり返したみたいにからっぽの頭でもまるで経験したことがないと何処からか訴えているようでそれならオレはきっと、今までいた場所では「外」を知らずに生きて来たんだと薄っすら思う。(まぁ、予測だけど)

オレはこんなとこで死ぬのかな…ぼんやり、そんな物騒なことを思ってしまう。
何が理由でオレはここに此処にいるのか、何がきっかけでオレはここに来たのか。そして名前以外のことは何も知らなくて思い出せなくて、オレの名前をつけたのは誰だった?生みの親は?…そんなことも分からない。ただなんとなく、オレはここにはいなかった。もっとちゃんと、温かい場所にいた。そう思うだけ。

「…クゥーン…」

だれか。
だれか。
だれか。
気付いて。オレはここにいる。オレはここに一人ぼっち。

なんだか寂しくなって、今度は誰かに呼び掛けるように鼻を鳴らして鳴いた。誰かが誰か、なんてそんなこと勿論分からないし知りもしないけど、そもそもこんな人通りの少ない雨の降る夜にその誰かが来る確立なんてあまりにも低すぎた。けど、鳴かずにはいられなかった。オレはまだ、生きていたい。
死ぬのかと考えた矢先に浮かんだそれは、オレの中に生まれたたった一つの願望で、そこでもし誰かがオレを見つけてくれるならそれは他ならぬオレの運命の相手で。オレを愛してくれる人。オレが愛する人。漠然と、でも確かにそう感じた。

「クゥン、クゥーン…」

オレはここにいる。
待ってるんだ。だから来て欲しい。迎えに来て欲しい。オレはここにいるんだ。なぁ。



さぁさぁと静かに降る雨の中、掻き消えそうな鳴き声を気が遠くなりそうなくらい上げてどれくらい経ったのか。あれから結局誰もこの場所を通らないし、あれだけ冷えていた筈の身体もどこかふわふわしたみたいに熱く感じられて来て走った訳でもないのにハッハッと息も上がった。そろそろ自分でも本当に危ないとそう思い始めた頃、この静かな音の中には今までなかった水を弾く音が弱ってもまだ敏感な耳を打った。

ぱしゃん。

「…良かった…、…いた」

身体に沁み込むように透き通った音が、身体を打っていた雨の代わりに降って来た。それはまるで奇跡みたいな感覚で、のろのろと覚束ない動きでなんとか首を動かして上を見れば暗い視界に更に暗いシルエットが浮かび上がって、傘を片手に持った男がオレのことを見下ろしていた。そしてゆっくりと足を折って身を屈めると濡れて冷え切った身体には例え毛皮越しでも温かく感じる手が触れて、取り出されたハンカチみたいな布で傘を差しながらオレの顔を拭いてくれた。

「…声が聞こえたんだ。お前が呼んだんだろう?捨てられたのか?それとも迷子?」

「クーン…」

分からない。オレは何も分からないんだ。そう訴えるように、オレの声が聞こえたと言う男に弱く鳴けばまるでそれを理解したかのように「そうか…」と声の調子を落として「寂しかったな」と撫でられた。顔は相変わらずどれだけ目を凝らしてもこの暗い視界じゃ見ることは叶わなくて、でも雨の代わりに降って来る声はとても温かくて優しくて気持ちが良かったから、オレは触れてくる手にそっと頭を擦り寄せて甘えた。男はくすりと小さく笑って、拭かれた顔以外びしょ濡れのオレを構うことなく抱き上げると自分の服がどれだけ泥だらけになっても気にしないで傘をしっかりと持ち直してぐんと近付いた顔を寄せて、笑った。

「一緒に帰ろう?」

ここは寒いしお腹も空いてるだろうと、物陰を出てすぐに差し込んだ街灯の明かりが今まで光に触れてなかったオレの目を眩しく突き刺した。けどすぐに慣れた目は早速オレを抱き上げて歩く相手が気になって目を向けて、その思った以上の、いや…もっとずっとオレの想像なんか遥かに超えたくらいの綺麗な容姿には思わず目を見開いた。きらきら光る、灰色の髪。街灯の明かりと背景になる雨の雫がそれをもっと眩しく透けるように見せて、白い肌も滑らかな曲線で伸びる鼻筋やシャープな印象の目元。そこに嵌め込まれたみたいにある目も、同じく灰色でまるで女神さまみたいだった。(男に女神もなんだとは思うけどそれだけ特別綺麗に見えたのだ)

「クゥン」

「?どうかしたか?」

「……キュ…ン…」

どうやら今度はオレの考えたことを気付かれたりはしなかったみたいだ。少し助かったような、残念なような…まぁ兎に角こんな美人に助けられて本当に良かったと思う。どうやらこの男はオレを住んでる家に連れて帰るみたいだから、最低一晩はこの寒い夜を後は穏やかに過ごせそうで今までカチカチに凍えてた筈の身体もいつのまにか和らいで丸まってた尻尾もはたはたと振り乱せるくらいになってた。あぁけど、この男の名前はなんなんだろう?知りたい。オレの名前も知って欲しい。こんな気持ちはハジメテでちょっと照れ臭い気もしたけど元は懐っこい性格が遺伝する犬種みたいだから致し方ないとして。

「ワン」

「え?」

「ワン、ワンワン……クーン」

“あなた の なまえ は なぁに”

「あ…そっか、名乗ってなかったんだな…うん、葵だよ。俺は葵。お前は?」

「ワン!」

“オレ は ヨースケ”

「ヨースケ?…暖かい太陽の「陽」に、間に挟まって取り持つ意味の「介」…かな」

「?」

「うん。ならお前はこれから陽介(ヨースケ)だよ。名前には全部意味があるから、陽介の名前の意味は人を明るくして手助けする陽介。いい名前だね」

「…ッワン!」



その夜、オレは「葵」に名前を教えてもらい「ヨースケ」改め「陽介」と名前を付け替えてもらって呼ばれるようになった。オレは尻尾をぶんぶんと振って嬉しさのあまり葵の顔中を舐め回して、その夜が明けてもずっとずっと何日が経っても葵の傍を離れたりはしなかった。
オレは葵のペットになって、葵はオレの飼い主になって、葵が学校と呼ばれるところに通わなければならない日中は寂しくて堪らないけど帰って来た葵の柔らかい笑顔と抱き締めてくれる腕があるからオレはそれも我慢出来る。だって葵はオレの特別で、運命の相手で、記憶は全然戻る様子はないけどそれでも構わない。大好きな葵と一緒にいられたら俺はもう何がどうなっても構わないんだ。

な、葵。

オレはット。キミのット
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2008.11.28(Fri)





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