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author 米 [write]

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まだ内に秘めた気持ち


(♂雪♀主+かわいそうな花村)

ある日のこと。
学校内でも一、二を争うくらい美形だと言う天城雪はこれまた学校内でもとびきりの美人と噂の高いクラスメイトの東雲葵と二人で某大型スーパーへと足を運んでいた。

「今度は何を作るつもり?」

二人が訪れたのは地下食品売り場。
カートワゴンの上に買い物カゴを乗せてそこに丁度手を置く葵は隣りの天城に対して自然と見上げるように首を傾げ、此処最近天城が凝っている料理の話を持ち掛けた。
家が老舗の旅館である為か天城は将来宿命的にと言うべきか旅館を継ぐことになっており、いつかはそれらしい女性を連れ添い共に切り盛りして行かねばならない。それはまだ未定の話ではあるがどちらにせよ代々続いた旅館を継ぐに変わりはなく、次期跡目としてコツコツと勉学に励みつつも板前としても役に立てるよう、料理に手を伸ばしたと言う訳だ。

…だが残念ながら料理の腕は学業とは違い無意識の内にあれやこれやと思い思いの要らぬ工夫をしてしまうものだから、自然と天城の作る料理はクラスメイトの里中同様、花村からは物体Xなどと言った不名誉極まりない命名を頂き、葵もまた花村のようにあからさまに口に出したりはしないがぎこちない苦笑を浮かべて次があると励ました。
それを見て以来、天城は自分の料理がそこまで酷いとは知らなかったが密かに思いを寄せる葵からの苦しい慰めや励ましに逆に心に火が付き必ず美味しいと言ってもらえるものを作ろうと決意した。本音を漏らせば板前修行など二の次で、本当は葵に食べてもらいたいからなのだが。

料理上手な葵からたまに誘われる昼の弁当はいつも天城が好む和食が振る舞われ、その自分好みの味に舌鼓を打たせる手並みは実家の旅館で一品混ぜて出しても申し分がないくらいだった。いつもはそれをほんの冗談と口にして笑っているがそれは事実であり、ころころと喉を鳴らして笑う葵の笑顔はその都度見せられた。
天城はあれやこれやと冷房の効いた陳列棚から食材を選ぶ目を葵に向けると艶のある美しい黒髪を揺らしながら自然と人目を引く笑みを柔らかく浮かべて照れ臭そうに口を開いた。

「あ、うん…実は今日は和食に挑戦しようと思って。煮魚とかの煮物系なら失敗も少ないんじゃないかってね…」

「そう。確かに煮魚なら臭みを取り忘れたり焦げ付かせたりしなければ失敗なんてそうしないし…良いんじゃないかな」

「今の季節なら鯖が美味しいよね。…それで、あの、東雲さんは煮付けって好き?」

「え?」

「あ、いや…もし上手く出来たら食べてもらいたいな、なんて…」

かぁ、と自分でも顔が赤くなるのがよく分かった気がした。天城は身長差のある葵が下から見上げて来る眼差しにいつもの落ち着いた様子が乱されて眉尻を困ったように下げながら小さく咳を払うと、きょとんとした表情で相変わらず見て来る葵にそっと、迷惑かなと尋ねた。

まぁ、それもそうだろう。ただでさえ最初に食べさせた料理が親友の里中とタッグを組んだ壊滅的な味で、この前もチャレンジした料理だって見た目は上々でも味が伴っていなかったのだ。幾ら料理の教えを請うていても、やはりそれを食べるのは幾ら懐の広い葵にも難しいに違いない。
天城はそう考えるとやっぱり無理を言ったと言葉を取り消そうとして口を開くが、それより先に葵がくすりと笑った。

「俺も和食好きだから、天城の作った煮魚も食べてみたいな」

「えっ」

「鯖だったらやっぱり味噌煮が良いかな。焼くんだったら塩か粕漬けが美味しいけど…それはまた今度お弁当に入れて来るから交換しよう?」

約束。

制服の袖から伸びる手を取りまるで子供がするような指切りをして見せた葵に天城は呆気に取られたまま切れ長な黒い瞳を瞬かせ、じわじわと染み込むような言葉に何を言われたか理解して来ると勝手な思い込みをした自分を叱りたくなった。

(そうだ。東雲さんなら…こう言うんだっけ)

葵は陰ながら努力している天城の姿をずっと間近で見守っていた。以前食べさせた弁当も不味いのにも拘らずきちんと食べてくれて美味しくないのだと悟った天城に次があるよと優しく肩に触れてくれた。少しずつだけど、徐々に腕を磨いて行く天城に葵は飾らない言葉でまっすぐに伝えてくれる。それが元で自分はこの人に惹かれたのだと、指を離してから自らパック加工のされた魚の鮮度を見たりして確かめる葵の照明に煌めいた横顔を眺めながら実感した。
ぼんやりとたったままの天城に前屈みになって自らもまた、今日の晩ご飯のおかずは何が良いかなどと零し選別していた葵は顔を上げるとふわりとはにかんだ。

「明日は天城のお弁当も作って来るから、また一緒に食べよう」

「え、うん」

「本当は花村に作って来る約束だったんだけど最近しつこいから弁当だけ渡しておけば大丈夫だと思う。最近の天城の腕もどうか気になるから話聞かせて?」

ふわりと柔らかく笑ったまま葵の漏らした一言に、天城はぴたりと動きを止めたがやがて小さく苦笑と呟きを漏らして不意に明後日の方向を遠目に見た。あからさま過ぎるくらいアプローチをされても気付かれないとは何とも哀れだった。

「……花村くん、可哀相だね」

「?」

「…いや、何でもないよ」

「…そう?じゃあ買い物の続きしよう。あと天城が入れて欲しいものとかもっと教えてもらえるかな」

葵の怪訝な視線を窺う限りまるで気付いてないらしいクラスメイトの好意に胸中にて軽く合掌を捧げると、くいと袖を引く葵に釣られてカートを押し天城は頷いた。

「だったら東雲さんの好きなものも教えてもらえるかな。頑張ってみるから」



後日、二人で仲良く肩を並べながらジュネスで買い物をしていた二人の姿が八高生に目撃され、屋上で一緒に弁当を食べる姿を更に目撃された事で二人の知らぬ場所で一時期あらぬ噂が立った。そして一人寂しく弁当だけを与えられた花村が噂を聞いて塞ぎ込んだのは、誤解が解かれるまで暫くそのままだったらしい。
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2008.11.28(Fri)





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