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author 米 [write]

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落つる日の


(堂♀主:戦時パロ)

多くの時と季節西へと沈みゆく太陽はまるで轟々と激しく燃え盛るように赤く揺れていたのを覚えている。じりじりと束の間の命を謳歌するようにけたたましく鳴いていた蝉の声もいつしか耳から遠くなり、代わりに静かな夜長に歌うのは鈴虫の切なげな声で藍色の濃い空に散らばる硝子屑のような星空は確かに美しく、儚くも遠い空の彼方から存在を細やかに主張する煌めきは見ていて胸を締め付けるばかり。こんな時には、俺はあなたを思います。



あの頃の事を思えば俺はあなたに出会えた事が何よりの奇跡だったと思います。遼太郎さん。あなたが遠い異国へと出兵なされてからが流れました。俺はあなたの帰りを待ち続け今も激しい戦いの中に身を投じておられるのかと思うだけで心が痛み涙が零れます。ですがそれを宛てた手紙に書き記せば心優しいあなたはきっと俺以上に悲しまれ、そして涙されるのでしょう。俺はあなたのそのような姿は例え想像するだけでも苦しく思うので敢えて記そうとはしませんが、どうか、どうかお身体にお気を付けて。語彙も足らず稚拙な言葉しか持たない俺にはそのような事しか伝えられませんがそればかりは無茶をしがちなあなたに対して願う唯一のことです。

あなたを見送った庭にはあれから三度目の梅の花が咲き近々桜の芽が綻び始めます。仄かに甘い香りを立たせる淑やかで美しいそれをあなたはいつだか俺に似ていると仰っしゃって下さいましたが俺には余りあるお褒めの言葉で、それはふとした時に思い出すだけで思わず頬に熱が籠るのです。あの時、あなたと最後に過ごした初春はまだ少し肌寒く、梅を眺めて縁側で熱い燗を呷るあなたの隣りへ膝を突いた俺の視線を伏し目に落とした頬へと出し抜けて触れた手は視線を此方へ向かずともとても暖かくそして優しかったのを今も鮮やかに覚えております。あなたと夫婦になり、子の出来ない身体の俺にあなたは連れ子の菜々子と言う女の子を連れて来てくれたあの日あの時からひとりだった俺はまるで胸から泉のように溢れるくらいの沢山の思い出を頂きました。

不器用だけれど人一倍正義感も責任感も強く生真面目、それだけならば良いのに難点なのは頑固者で少しだけ口うるさいこと。そんな風に周りから言われていたあなたは俺も含めて色恋にはとても疎くて、お互いまるで初恋のように感じて少し寄り添うにもいたく遠回りをしてしまいましたね。けれど想いを重ね心を通わせ、初めて触れ合わせた手と唇と呼吸の熱を俺は忘れは致しません。たった少しの口づけがやけに長く感じられて、あの時は本当に世界はゆっくりと廻るようでした。流れる雲はいっそうゆるりと流れ、唇を離せばあなたは短く揃えた頭の後ろ髪を荒っぽく掻きながら照れ臭そうに苦笑し、浅黒い肌の所為で分かりにくかったけれど確かに頬へ朱を差していた。そうしてあからさまに一つ堰を払えば一言、山を空を川を全て赤く燃やすような夕焼けの中告げられた科白を。俺に。



ねぇ、遼太郎さん。

(俺の隣りで生涯、笑っていてくれ)

あなたのあの告白を思う度、あなたを恋しく思うのです。あなたに会いたいと、抱かれたいと、呼ばれたいとそう願うのです。胸はくしゃりと蕾を摘まれた花のように萎み息が苦しいのです。あなたがいない、夜が怖くて。
そして今日もまた。

落日が迫る。
(あなたを思えば思うほど募る想い。俺はあなたなしでは疾うに笑えない)
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2008.11.28(Fri)





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