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絶対眼鏡。~完全無欠のドSなロボット~ 1


(某ロボットが恋人のドラマパロディ)

オレは佐伯克哉、25歳。独身。
キクチ・マーケティング営業第8課(別名窓際部署)勤務のしがないサラリーマン。
因みに入社暦は今年で三年目。

今日もまた小売店営業で要らぬ失敗をやらかしてしまい契約の話をする以前に門前払いを受けてしまった。折角新規オープンのドラッグストア、新商品の売込みをするには絶好と言えるチャンスだったにも拘らず毎回こんな風に何かしらの失敗を続けているだなんて自分の事ながら情けなさ過ぎる。
トボトボと足取り重く会社に戻ると結果を尋ねて来た課の皆は答えを聞くまでもなく何やら悟った様子で曖昧な苦笑を浮かべて慰められ、課長や同僚の中では特に親しい友人と言える男に励まされまた明日頑張れば良いと言われた。しかし、これでも自分としては努力をしているつもりなのだ。また明日、その言葉を聞く度に気が重くなり肩には重圧が伸し掛かる。
まるで自分のその日にした努力をないように取られているようで…こんな風に考えてしまうほど滅入ってしまいそうになる脆くて弱い、情けない自分。否、結果が出せないならそれも同じなのかもしれない。何しろ自由な学生の時代は既に三年前終わりを告げている、今の自分は自身が働かねば食べて行けないし生活して行けないれっきとした個人なのだから。成人と言う自己に責任を持たねばならない年にもなって、今もこのザマではあまりにも駄目過ぎる。失敗する度にこう気持ちを沈めていては慢性化していつしか取り返しの付かない事になるだろう、謝って済む問題でなくなる前に今の内に失敗をしないように目一杯の努力と心掛けをしておかなければいけない。
そう思いはしても、やはりそのままアパートへの帰路を辿る気にもなれず途中自動販売機でビールを購入すると誰も居らず都会の淀んだ空気の中でただぼんやり光を放つ月に照らされ静まり返った夜の公園でベンチに座ってプルタブを開けた。プシッと音を立て酸の音が小さく鳴るそれを口に付け一口含めば気が滅入っているからか、普段酒には強い筈なのに今はこの一口すら喉を通るのが難しく焼け付くような酸味と独特の苦みが胸に重く落ちて来た。自然、ダメだと理解しつつ堪え切れない溜め息が漏れる。

「あーあ…ホント、情けないよなぁ…」

嚥下した酒の苦みは何かを忘れさせるよりも前に益々後ろ向きな方向へと自分を誘っている気がした。
背を丸くして両手に包み込むようにして持った缶の冷えた感触は蒸し暑くなるこれからを思えば心地良いのに悲しかった。数百円程度の酒を一口しか飲まずに結局そのまま放ってぼんやりしていると、肩に掛かる重みは明日への重圧を表しているような気にさえなった。出来るなら休んでしまいたい…そんな社会人としては失格な理由が頭に過ぎったけれどそれではまた更に部署の同僚達に皺寄せが言ってしまう。何もしないで迷惑を掛けるより何かしてからの方が未だ更生の余地もあると言うものだ。何より、迷惑は掛けたくないのだ。
そんな堂々巡りな暗い思考の波間を漂っていると不意に遠くから靴音が聞こえた。コツコツと公園のタイル地を鳴らす足音はいつの間にか自分の直ぐ傍まで来て立ち止まりつい反射的に持ち上げた視界には全身黒尽めの男がいた。こんな季節だと言うのに裾の長いロングコートを羽織り革製の手袋までして、帽子まで黒く今時珍しいくらいの丸い眼鏡を掛けたその人はまるで女性のように長い金髪を緩い三つ編みに編んで薄く笑んでいる。
明らかに変わった出で立ちや雰囲気をしているのに硬直した身体は身動ぎすら適わなかった。ただひたすらに相手を凝視し目を見張る事しか、いきなり現れた彼に対処する術が見つからない。暗い公園のライトに照らされたその人は知り合ったことがない筈だ、こんなにも印象的ならば。

「ビールは、美味しくありませんか?」

「…え?」

「先程からたった一口飲んだばかりでちっとも進んでらっしゃらないでしょう。それとも、抱える悩みが大きすぎてアルコールが楽しめないのでしょうか」

しかし此方の躊躇うような反応も意に介す事なく男性は語り続ける。それに対しつい頷くように再び項垂れた。

「恋の悩みですか?それとも仕事の悩み?…はたまた両方か。否、しかしあなたのような方であれば周りの方が放っておく訳もない。力だって周囲が目を見張るほどのものを秘めていると言うのに」

「…そんな事…」

見ず知らずの他人にそこまで詮索される事に謂れはなかった。見え透いた世辞も心地良い筈がなく逆に気が滅入る…でも、やはり見ず知らずの他人であると言う事が逆に楽だったのかもしれない。開き掛けた口は止まる事なく自分自身へ溜め込んだ鬱積を少しずつ晴らすように話し出した。

「オレは駄目なんです、何をやっても要領が悪いしいつだってそう…要らぬ事ばかりに蹴躓いて、失敗して…会社のリストラ話が持ち上がる度にいつ自分が切られるかどうかビクビクしてて」

「まさか、ご自分が会社にとって不要な人間であるとでも?」

「そりゃそうですよ…いつだって、不安で堪らない…。あなたこそ俺のこと何も知らないくせに見え透いた事ばかり言うのは止めて下さい」

こんなにも要領が悪くて使えなくて気の利かない自分の何処に利点や長所があるのだろう。ましてや恋の悩みだなんてそんな大学時代に少し触れ合った程度の彼女くらいしか経験のないオレにはこの先もきっと縁のない話に違いない。こんな自分を誰が好きだと言ってくれるのか…否、気の良い同僚なら嘘でもそう言ってくれるだろうけどそれを信じるには怖すぎた。
なんだか次第に自分の傍らに立つ男性が疎ましく思えて来た。そもそも彼は何故自分に話し掛けて来るのだろう、早く立ち去ってくれたら良いのに。顔を背け無視でもしていたら勝手に離れて行くのだろうか。手に握るアルコールの冷えた感触は温みを帯びて来ている。ずきりとこめかみに疼いた痛みはきっと気の所為で、嗚呼早く帰ってしまいたい。あのまま真っ直ぐアパートに帰っていさえすれば良かったのだろうか。
けれど傍らに立つ存在は相変わらず感情の読めない曖昧な笑みを浮かべたまま。

「いえいえ、ご謙遜を…あなたには能力も魅力も共に溢れんばかりに備わっているのですよ。それこそ社会を動かす存在と肩を並べても可笑しくないほどに…謙虚なところもまた素敵ですね、やはり他とは一線を画していらっしゃる」

「…オレをからかって、何が楽しいんですか。いい加減にして下さい」

次第に篭る苛立ちは隠しようがなかった。普段気が滅入っていさえしなければこんな事は言わなかっただろうけれど、それでも微かに痛む頭やむかむかする胸、ぐるぐると眩暈を起こすような憂鬱な気分はそれを拍車に掛ける。
くすくすと小さく喉を鳴らして笑うその人はオーバーアクションで大袈裟に肩を竦め息を吐くと言った。

「からかうだなんてとんでもない。私は至って真面目ですよ、冗談は好きませんからね」

「だったら…」

「もし私の言葉がお気に触ったのであれば申し訳ありません。では、お詫びと言ってはなんですがあなたに贈り物を致しましょう」

「え?贈り物って…」

何の脈絡から贈り物という単語が出て来るのか。確かに自分は彼が言う事を少なからず不快と言うか疎ましく感じはしたけれど、そんな物を貰う気にはなれない。そもそも自分と彼はまるきり初対面なのだ、そんな人物から無闇に物を貰うだなんてまるで無垢な子供…否、今時の子供ですら何かしらの危険を察知するだろう。
眉を顰めて彼を見遣れば相変わらず普遍の笑みを浮かべたまま、彼はこう言った。

「では、あなたが心の中で常に思う物、それを願う形、欲する姿をこれを手にして頭に描いて下さい」

そして差し出されたのは何の変哲もない、細いフォルムをしたシルバーの眼鏡だった。月明かりと街灯の明かりに照らされ反射したそれは何処となく冷たい印象を帯びて半フレームの縁部分をきらりと光らせている。
これを手に取って何をしろと彼は言った?自分の思うもの、願うもの、欲するものを思え?もし考えたならどうなると言うのか、自分が変わりでもするのか、小説や映画の中にあるように自分の人格が入れ替わったりして能力も引き出され人にも注目されて…否、そんな事、馬鹿馬鹿しい。くだらなすぎる。
幾ら少し酒を飲んでいるからとは言え自分の意識は未だクリアであるし、見え透いた世辞を言うなどして馬鹿にするにもほどがある。自分でも硬質だと思われるような固い口調で口を開くと距離を置くように告げた。

「…要りません、結構です」

それに視力だって悪くはない。兎に角この訳の分からない人から遠ざかりたかった、けれど足が動かず虚勢を張るようにして口だけが動くばかり。

「そう仰らずに、どうかお受け取り下さい。これはあなたのお役に立つものですよ。今のあなたの下に落ちた生活を十分に潤し、…そして満たす。あぁ、説明が不足でしたら申し訳ありません。これはただの視力補正の眼鏡とは違います。そう…これは言わばあなたにとってのラッキーアイテム、手にするまではほんの儀式的なものですから何も気になさらなくとも良いのですよ」

「ラッキーアイテム…?」

今時そんな、カルトの勧誘じゃあるまいし。
そう一瞬だけ思ったけれど気が付けば男性の手袋を嵌めた手がオレの手に伸びそっと、静かに上下で包む込むように手を形作り例の眼鏡を取らせた。

「ッ…ちょ!」

「冗談だと思われるのであれば試してみれば良いではないですか。何も起こらなければそれまで、何か起こったとしてもそれはあなたにとって最高の道が開けるまたとないチャンス…それくらいの手間を掛けたとしても大したマイナスにはならないでしょう?」

「…そ、れは…そうかもしれませんけど…でも、ラッキーアイテムだなんて」

いつしか、あれほど抵抗していたにも拘らず俺の心は揺らぎ始めていた。言葉巧みに囁くような語りをする彼の口車に乗せられてすっかり項垂れた頭はその視線の先にビールと差し替えられた冷たさを放つ眼鏡を見下ろしている。…もし、もしこれで、俺が望むものを手に入れられるのなら。彼に出会うより前にナーバスに陥っていた頭が先程までの言葉や考えを再び浮き上がらせてくる。
そして男性は知らずにそっと笑みを濃くし、また一つ、甘美な誘いをオレの耳元に囁いた。

「さぁ、どうぞ。これにあなたの思い描く全てを込めて願い欲すれば、あなたの人生は大きく変わります。まるで生まれ変わったように素晴らしい、夢のような…あなたを取り巻く世界の全てが、あなたの思うままになる…」

レンズやフレームを傷付けないように、緩く、けれど心の何処かでは強く握り締めた眼鏡の感触。思い描くオレの理想、オレの夢、俺の願い。形作るそれらを結晶のように固めて、祈ると…不思議と頭から血の気がスッと引いたような気がした。

(な…っ)

街灯の明かりに照らし出された暗いアスファルトが、否、オレの視界全体がぐにゃりと歪んだ。眩暈を起こしたようにゆらゆら、曖昧に揺らいで。思わずふらついた格好のままベンチを立とうとすれば微かに聞こえた、近くて遠い彼の声。愉悦を孕んで低く喉を鳴らして笑う、声が。そこで俺の意識は途切れた。



(さぁ、始まりです。あなたの為だけの時間が。存分に、ご堪能あれ)


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2008.07.03(Thu)





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