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author 米 [write]

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雨の正午、図書室にて


(♂直♀主)

視線で追う。(誰を追う?)
僕が焦がれて止まないその人を。(だってとても綺麗な人だから)
色素の薄い灰色の髪がさらさらと風に揺らぐ。(黄色のリボンスカーフを結った黒い襟に白い首筋が覗く。なんて魅力的)

今年の秋は晴れ間が見えると秋らしからぬじんわりと暑い日差しになる。けれどそれに負けないくらいの熱い眼差しを今日この頃の僕が送って思うのは『こっちを向いてくれないかな』とか『何を考えてるのかな』とか『僕を思ってくれていたら嬉しいな』とか段々と夢見がちな思想で、今まで生きて来たたったの十数年、短い人生の中でも僕は曲り形に自分自身を現実主義の人間とそう見ていただけに、意外にもロマンチストな節を持っていた事を少なからず驚いていた。

僕より一つ年上で背もほんの僅かだけれど高いその人はとても綺麗で聡明で、何より本についての造詣が深く僕と渡り合って物事を話せる年の近い人なんてまずいないだろうと思っていただけに驚きと同時に嬉しかった。そしてその人は雨の日にはいつも図書室にいて窓際の奥の席で長い睫毛の影をうっすらと白い目許に落として本を捲っている。そう、今日がその雨の日。(とは言え途中から降り出したからすぐに止む可能性が高い)

図書室には、微かに古い紙束とインクの匂い。そして空気中に細かく漂い肌をしっとりと蒸らす水の匂いとが嗅覚に特に優れていると言う訳でない僕にも理解出来て、この空間にいるだけで自然と心安らいだ。(それは勿論、あの人がいるからと理由を含んでいる為でもあるけれど)(灰色の、いっそ透けるような髪色をしたあなた)

「…直斗?」

「え、」

「やっぱり…今日はまた何か読みに来たのか?」

「東雲先輩…」

とん、と肩を叩かれ振り向けばそこには脳裏に描いていたその人が。僕はどきっと鼓動を高鳴らせて目を丸くしたけれど目深に被っていた帽子と元から長めにしていた前髪のおかげでそう簡単に表情を読み取られずに済んだ。
既に図書室内にいると思っていたその人は相変わらず真っ白且つ滑らかそうな容貌の上に乗せた口許を薄く笑みで飾り穏やかそうに目許を和らげていた。ふと見ればその、黒のハイソックスと校則規定よりも少し長いスカート丈のセーラー服に身を包んだ姿はすらりとした女性にしてはやや高めの身長を見事にバランス良く紛らわせてスレンダーな美人として魅力を引き立てている。やっぱり、いつ見てもこの人は僕が今まで見て来た誰よりも綺麗だ。

その腕に抱えられた小さな本一冊を視界に捉えれば返却に来たのかと至って半々に分かれる全く別の意識を余所に僕は一つ頷く。いつもなら同じ空間にいられるだけでただ幸せで、そしてたまに話せたら儲け物だと思っているだけに今日のような日は本当に嬉しくて堪らない。
愛想よく笑うなんて芸当、僕にはなかなか難しくてつい澄ましたような素っ気なく淡泊な態度になりがちだけれど。

「先輩は本の返却ですか。今度は何を借りたんです?」

けれどこの人は、先輩は、東雲…さんは、冷めた態度を取る僕に気にした風も見せず取らずでただ笑みを深め銀灰色の目を眇めると図書室のドアに手を掛けながら言う。

「ロス・マクドナルドの『さむけ』って言う本。…前から興味あったんだけどこっちの本屋には取り扱い自体少ないし、図書室の新刊に月一で入れてもらったんだ」

「え。それって」

掃除が手抜きな所為かどうか分からないけれどがらがらとローラーの滑りが悪いドアを開けて振り返らずに言い放った先輩の答えに思わず目を見張る。
だってそれは僕も大好きな推理小説の作家と、そのタイトル。ハードボイルドとサスペンスに満ちたその作品をまさか先輩も知っていたなんて正直思わなくて瞬けば、ふと悪戯っぽく口角を吊り上げて先輩は笑った。(なんだか、猫みたいだ)

「うん。直斗も知ってると思って。そしたら一緒に話せる話題も増えるだろう?」

中身は勿論楽しかったよ。
そう魅惑的な笑みと意味深な言葉を残して言った先輩は返して来るね、とそれだけ言ってカウンターに向かってしまった。僕は咄嗟に先輩がいつも座る定位置の席の他に、前か隣りか空いていないかを確認すると空席のままなそこに今よりもっと、もっと、胸を高鳴らせて喜びに浸った。



(先輩。少しは自惚れても良いですか?僕、あなたに読んでもらいたい本が沢山あるんです。そして僕のことを沢山知ってもらいたいんです)
(あなたのことも、僕はもっと知りたいと思っているんです)
(胸に秘めたこの言葉は口に出すのが難しくて、どんなトリックを解くより勇気も知恵も必要になる。でもいつか、この気持ちが言えたなら)
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2008.11.28(Fri)





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