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author 米 [write]

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狂気の瞳


(病花村主:監禁:続かない←)

「…ん、ぅ…っ」

気が付いたその時にはもう既に遅く、葵が白雪のように白く薄い瞼をゆったり開いたその時頃には身体の自由は奪われ、手足を縛られていた。

「…な…っなんだ、これは…!」

銀色のようにも見えさえする灰色の双眸を目いっぱいに開き、葵は今自分の置かれている状況にただそう言葉を漏らすしかなかった。
葵の両腕は高校の制服を着込んだ背中の後ろ手に組まされ袖から覗く手首を黒革の硬く強固な紐で結ばれており、両足の方も視線を下げれば靴を履いたまま足首を同じような革紐で固定され逃げられないようにしているかのようだった。そして案の定、上手く身動きの取れない格好で葵がどうにかその白い首を動かし辺りをぐるりと見回してみれば、そこは初めてテレビの中に入った時に訪れたあの殺風景な寝室に雰囲気が似ていた。
けれど、四方を囲む壁には例の顔を切り抜かれたポスターや赤いスカーフでこさえられた謎の輪などは垂れ下がってはおらず、埃を被ったような椅子やテーブルなどの家具の一切も葵が横になるベッド以外には何一つ存在せず、ある物と言えば正方形の形をした鉄格子の窓くらいだった。薄く開いたそこから差し込む淡い光は霧掛かった空気を乱反射するように鈍く煌めかせており、この見覚えのあるようで全くない空間の光景は少なくとも葵にとって、テレビの外の現実世界ではないのだと感じさせた。

「ここは…何処だ?……っ」

ほんの少し身じろいだだけで横たわる硬いパイプベッドのスプリングからは鈍い軋みが聞こえた。そしてそんな事にすら勝手に震えた我が身を葵は僅かに疎んだが、この訳の分からない状況下ではそれすらもある意味では仕方がない事かもしれないと片や思う。
どうやら此処は少なくとも現実の世界ではなく、かと言って時折夢や現実世界の扉を開けば出会えると言う深いベルベットブルーで統一されたリムジンの車内と言う訳でもない。そもそも自分はこの場で目が覚めるまでの記憶が曖昧で思い出そうと頭を働かせようとすればずきりと痛む。痛んだこめかみに瞼を瞑りそろそろと開いた裸眼の視界に触れる霧をふと見て、もし此処がテレビの中であるならば頭痛の原因やこの非現実な状態と状況、そして光景も頷ける気がした。

テレビの中には現実世界の天気が晴れである限り霧が立ち込め辺り一体を秘密保守のように閉ざしている。そしてその霧は人体にとってそれぞれの個体差はあるものの少なからずの影響を与え、その世界の住人たるクマが精製し与える眼鏡なしではろくに辺りの様子が窺えず頭痛や気分の悪さも抑制されずに心身ともに衰弱して行くばかりだ。
…考えれば考えるほど今の葵を取り巻く環境がテレビの中以外にないと知らしめるようで、葵は咄嗟に普段胸ポケットに差し込んでいるダークグレイのフレームカラーをした眼鏡を探そうと視線を落としたがいつも感じる硬質な感触はそこにはなく、もしかすれば何処かに落としたか、または誰かに抜き取られてしまったかのどちらかだ。葵は思わず無意識の内に唇を白くなるまで強く噛み整った眉を中央に寄せればそこにふと、今まで感じ得なかった異質な雰囲気を感じて背筋を強張らせた。それは突如としてこの室内、とまともに呼べるのかすら怪しい空間に現れ、まるで鳥の羽が宙から地上に音も気配も何もかもを消し去って足を着けたようにトン…と軽く降り立つと、その靴音は吸音や吸着性が柔らかい運動靴か何かなのか逆にぞっとするくらいの恐怖を何故か分からないが葵の背を包んで震わせた。

(…っ)

そして、その瞬間に思ったのは幾人かの仲間たちの姿だった。
八十稲羽と言う辺鄙な田舎町で今年の春から何の前触れなく始まった、凄惨且つ陰惨な殺人事件。その裏には多くの謎が渦巻いていて、あるきっかけを得て自分はそれに関わり仲間を得て、皆でそれと立ち向かう決心をした。最初の内は少人数に始まり徐々に増えて来た仲間たちは、お互いが皆そうであるように葵自身にとっても一人一人が掛け替えのない存在の内の一つであり、彼らのことを思うと心が自然と強くなれる気がした。同級生の里中に天城、後輩の完二にりせに直斗そしてこの世界の住人であり今では外にも出るようになったクマ…勿論、葵が戦う決意を決めたきっかけを一番初めに共に固めた花村も。
彼らは今此処にいないけれど、助けを求めたい気持ちもあるけれど、それでも今此処にいるのが仲間の内、自分一人だけで良かったと葵は震える身体を気付かない振りをしながら考えて、重く息を吐いた。もし、この場所が本当にテレビの中で更にそのテレビの中に自分を浚い放り込んだ人物がいるとすれば、それはつまり犯人の可能性が高いと言うこと。つい先日家に届いた差出人不明の謎の脅迫状に関しても、今回の件と繋がりがあるのではと恐怖と焦りとの狭間で揺れる理性に促され考え付いた。

もし犯人が直に自分へのアタックを仕掛けて来たならば、自分がその犯人を捕まえてみせる。リスクは高いがその反面でこれはまたとないチャンスとも言えるのだから。
確かに、仲間たちとの連絡や繋がりが途絶えたのは不安を掻き立てられる思いになるが自分以外の誰かが傷つく可能性も低くなるのだ。自己犠牲だと仲間には言われるかもしれない。けれど葵はそれでも、大切な仲間を思えば思うほどそう選択するばかりで兎に角この手足を縛られた最悪な状況を如何にして切り抜け、自分を拉致し拘束した相手を捕らえるかどうか迫る恐怖と戦いながら必死に考えた。

「くそ…っ」

(…花村、花…村っ…!!)

でも、けれど、それでも思ってしまうのは幾ら理性を働かせても止めるのが難しい。
仲間の中でも特に信頼が置け、事件に関わる際の一番初めに親友であり戦友となった同級生兼クラスメイトの花村陽介を頭に思い浮かべてしまい、先程から言い知れぬ気配を纏う何かが傍らに現れた焦りでもがつき出した手足を必死に動かし血が滲むまで逃げ打とうとする葵は次第に目尻に薄い膜を張り溜めて息を呑んだ。

逃げなくては。

「花…っ」

逃げなくては。

「花、む…っ!」

逃げなくては。
逃げなくては。
早く、兎に角此処から。

逃げて。態勢を立て直して。そして戦わねば。
でないと。

「呼んだか?葵」

「…―――っ!」

でない、と。

「…花…村……?なん、で」

耳元に、囁かれるねっとりとした低い声。
変声期を終えて大分経つだろうその声はこの町に来てからと言うもの聞かない日はないと言うくらいに耳に自然と馴染み、葵にとっても酷く安心の出来る、仄かな色気を含んだテノールで。あおい、と。そう気安く戯れのように自分を呼ぶ声のイントネーションは、響きは、厚みは、重みは、柔らかさは。振り向いた先の霧にさえ薄らぼやけるその人物の輪郭をじっと見つめて、更に絶望に突き落とされる。



「お前が、ここに」

「葵」

「どうして、花村が」

「葵」

「…どう言うことだ」

「俺が、お前を此処に浚ったんだよ」

嗤い、吊り上る、笑み。
その双眸は狂気の色でありながら金色に輝いてはいなかった。

「さぁ、楽しいコトしようぜ?」
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2008.11.28(Fri)





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