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author 米 [write]

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カーテンコールは鳴りやまぬ


(足主心中BADED)

その時、彼も自分も息絶え絶えにひゅうひゅうと喉を嗄らし込み上げる血反吐を飲んでいた。鉄臭くざりざりとした舌触りが口内を満たすのを覚えながら、僕はその不味い味に自然と眉を顰めて暮れゆく空をただただ見上げているばかり。そこにあるのはただ血のように赤い空だ。そしてぐらぐらと水面の波紋のように揺らぐ黒い影が蠢きその幅を次第に広げてゆく。

(嗚呼、世界の終わりとはこんなものか)

焼け付くように熱を持つ喉は呼吸をしようとすればごぼりと溜まった血を吐き出して苦しい。霞む視界は暗くて、いっそ笑い出したくなるくらい僕の今の姿はさぞかし滑稽で愚かなのだろう。僕の脇腹を一突きして荒れた地面に縫い付ける彼の刀は冷たくて、心地良いと思ってしまうくらいなのだからそろそろ僕自身終わりが見えて来そうだ。そして彼もまた。この暗い黄昏に共に飲まれゆく運命なのだ。

「足立、さん」

「…葵くん」

「…大丈夫…です、か」

あろうことか、彼は僕を柄を握る刀で突き刺しながら言った。どれだけ性格悪いんだい君って子は、とぼやける頭で思うけれどぽたりと頬に落ちた生温い滴に意識が引き戻されて彼の顔を見る。そこには相変わらず生っちろくて人形みたいな顔をした彼が僕の下半身を跨がり肩で小さく息をしていて、辺りの暗ぼったさと学生服の色のお陰でやや分かりにくいけれどその下の白いシャツに染まる赤は見紛うことなき鮮血で僕が開けた風穴からはどくどくとそれが溢れ返っているにも拘らず彼は薄っぺらい笑みを消えそうな加減で浮かべていた。

(そうか。君も)

「葵、く…」

「…何ですか」

「君は、これで…良かったの」

結局君は、君達は、この黄昏に間に合わなかった。世界の終焉なんてのは意外にもあっさりと来てしまって、それは日常の通りに朝日が南から昇り西に落ち代わりに月の眩い夜が訪れてまたそれが夜明けには濃紺を霧散させて行くくらい自然な事とさえ思えた。
彼は、今こうして僕と共にその終わりを迎えようとしている。

彼の仲間たちは此処にはいない。彼は、僕との戦いに仲間を一人も連れて来ることなく対峙して来たのだ。それは一見僕を甘く見ているかのようでいてそうではなく、僕の危険性を知るからこそ敢えて連れて来なかったのだろう。彼の仲間だからこそ是が非でも付いて行こうとしたに違いないからどうやって説き伏せたかは分からないけれど、彼は僕に刀を振るう時も沈黙したままだった。
距離を詰めれば有利な刃物に対して距離を取れば遠くからでも命を容易く摘み採れる飛び道具。力は五分五分で僕の銃撃に満身創痍になりながらも彼は足を止めずに僕の懐まで飛び込み右の脇腹から左肩までに掛けてを一閃し、血飛沫を上げたすぐにグリップを握る拳銃はパンッと一発暴発してから遠くへと弾かれそして気が付けば冷えた銀灰色の瞳が鈍く輝いて僕はそれに魅入っている内に更に焼けるような熱を腹部に感じ、その痛みに呻いた。が、それはまた彼も同じで暴発させた弾が彼の腹を貫き、倒れ込むように彼は僕の状態に前のめり膝を挫いた。

それが、今。

彼は何処からか吹く埃混じりの風に灰色の髪をさらさらと靡かせながら息を段々と小刻みに乱して呼吸し色褪せていく唇を一度だけ噛むと自嘲に似た仕草で口角を吊り上げてから地面を抉るように拳を握る。同じ男とは思い難いくらい綺麗な白い手が土埃に汚される。細長い指先に飾るような半透明の爪が肉との間に砂を咥え込んで勿体ないと思った。その間にも僕の腹からは血が溢れ地面を水溜まりにし続け更に手足の先から熱が引いていく。彼もまた同じだろうけれど、小さな傷は彼の方が断然多いだろうからその痛みもさる事ながら意識が遠のき絶命するのもそう遠い話ではない筈だ。

「…俺と、あなた…は…」

「…うん?」

意識が遠のいているのは何も彼だけではない。僕もまた彼の言葉に漸く先程の答えが返って来るのだと思い出しくらくらする頭をどうにか保たせようと試しに伸ばしっ放しにしていた爪を手に食い込ませた。

「俺は、あなたと…いや、あなたと俺の二人、は…何処か、似ていると、思った…から」

「、」

僕はまさか、彼がそんな事を口にするだなんて思いも寄らなかった。それまで輝きを保っていた瞳は次第に生気が薄れて来てそれでも懸命に意識を起こしていようとわざと息を乱す。僕は咄嗟に彼に手を伸ばし掛けたけれど出血のあまり体温の下がり切った手は悴んで思うように動かせない。なんて疎ましい。

「だから、…あなたをひとりには、したく、なかった。あなたの言うくだらない世界を、おれは今まで無為に過ごして…きた。親も、教師も、周りの同級生たちも、みんな、冷めた気持ちでしか見れてなく、て……みんな…俺はあなたと同じでくだらないと見做して、いた」

「…」

「けど、でも。この町に来てからは俺は、初めて人が温かいものだって…知った。家族の愛しさも、大切さも、何もかも…友達と過ごす時間がどれだけ、…大事、か。俺はあなたに、あなたにも、それを与え、た…かった、教えてあげ、たかった…」

「…葵君?」

今まで小刻みだった呼吸がぜぃぜぃと大きく肩でするようにまでなり、僕は霞む頭で彼を呼んだ。けれど彼はひどく冷たい手を震えながら伸ばし、投げ出された僕の肢体にそっと時間を掛けて触れて、何だかやけに重たく感じられた背広の上から左胸に手を当て淡く微笑した。

「…あなたの、寂しさや虚しさを…俺は、知ってます。知って…いまし、た。…だから、もし、あなたが…今みたいに引き戻せない位置にいた、なら……いっそ、最後まで、本当にひとりでいる、よりも…せめてあなたを抱き締めて俺も…いき、たいと、傍にいて、あげたい…て」

(あなたを最初から最後まで無意識の孤独に残していたくなかった。同じ孤独を感じていた者としての同族的な感情かも知れないけれど、この町で変われた俺さえあなたをただひとり置いていくのが苦しくて辛くて悲しくて、そう、愛していたからこそ。終わりを迎えるなら二人でと思った。それは、秘密だけれど)

彼が何を考えて微笑したのか、吐露される気持ちを聞いても僕には分からなかった。ただ左胸に触れる手から何らかの温もりを覚えて目を眇め、彼はこんなにも荒っぽく僕を痛め付けたにも拘らず優しいのだとぼんやり思った。

「あだち、さん」

するり、するり。
血塗れの手が胸から首へ、首から頬へと競り上がりぬるりとした感触が曖昧な動作でぺたりと触れる。もう片手は彼の土を掴んだ手といつの間にか絡み合い、血反吐の不味い味のする唇をどちらともなく合わせた。それだけで、僕らはこれから起こる世界の終焉と言う名の黄昏から束の間でも赦された気が、した。



「あなたをひとりには、しない」

「…はは、最高のプロポーズだね」

そして世界は終わる。
僕と彼を呼ぶカーテンコールは鳴りやまないまま、それでも僕らはがらがらと崩れゆく空にそっと瞼を伏せて無視をして、抱き合い眠った。

(さようなら、最後に一度だけ愛しいと思えたくだらない世界。僕らは先に旅立つ)
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2008.11.28(Fri)





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