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author 米 [write]

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運命の人


(花主塔コミュパロ)

その人に出会ったのはまさに運命だったのかもしれない。

「初めまして。今日から家庭教師をさせていただく事になりました、東雲です」

よろしく。
そう言って軽く頭を下げてくるその人は、今まで俺が見て来た誰よりも綺麗で『真っ白』だった。



家庭教師が来ると初めて聞かされたのは、当日だった。

今日はなるべく早く帰って来なさいと家を出るとき母親から言われていたのが何故だか頭にこびりついていて、いつもなら少しぶらついてから帰る筈がその日ばかりは普段と違って授業が終わってすぐに帰宅した。
とは言えまだバイトが出来る年でもないし中二のガキがそこらで遊んで帰るにはこの町は何も無さ過ぎて、その所為で逆に、本当に少しだけ買い食いとかした後にチャリを漕いで帰るのが俺にとっての唯一の楽しみみたいなもので、そんなささやかな楽しみさえも奪うのかと母親を恨めしく思ったが家族の誰よりも恐ろしい存在と身に染みて理解している為に反論は出来ない。そしてこんな日に限って神様と言う奴は意地が悪くて、放課後帰りの支度をしている俺にクラスの奴らが新しく出たゲームのお誘いをして来て断りを入れると仕方ないよな、と苦笑を返され相槌を打ちながらも内心は俺も行きたくてしょうがなかった。

俺が帰宅すると家の中だと言うにも拘らず母親が化粧をして着飾った様子でいて、時計を時折見ながらドアを開いた俺に振り向くとにんまりとしたあくどい顔(俺にはそう見えた)を浮かべて今日は何処にも出たらいけないと釘を刺して来た。はぁ?と中学の学ラン姿のまま俺は突然言われた言葉に理解が及ばず思わず間抜けな声を出して母親を見た。何言ってるんだ、じゃあ自販機にジュース買いに出たりも?そう問えば勿論とさも当たり前のように男らしく腕組みした母親に答えられがっくりと項垂れる。そんな格好じゃせっかく着飾って見せた衣装とやらが台無しのような気がしなくもない。

この田舎町には都会には溢れんばかりに存在するコンビニと言う便利なものがないのだ。…否、ある所にはあるがそこは流石田舎町と言った様子で品数も店員数も少なくて商品の入れ替えもあまり無いような場所でこれが果たしてコンビニと言えるだろうか?と都会出身の俺はそう思ってしまう。(まぁ24時間営業してるあたりコンビニなんだろうけど。だったら最近は24時間営業のスーパーの方がよっぽど便利だ)
――家庭の事情でこの町に来てから約半年、馴染むのは本当に大変で気の滅入る事も沢山あったけれど今はこの事実が一番に気が滅入る気がした。そして遂には例の爆弾が打ちひしがれる俺に頭上に投下される。

「あ。そうそう今日から家庭教師の先生が来るから」

「…はい?」

「夕方の六時にはいらっしゃるそうだからそれまで部屋の掃除とかしておきなさいよ」

「…は、」

分かっていた事だが忘れていた。
この家の母親は夫よりも権力と言うか、有無を言わさぬ圧力に似たものを持っているのだだった。そして天上天下唯我独尊。思ったら即決行の思い切りの良すぎるくらい、周りの声にも耳を貸さない自分勝手でもあった事を。
普段よりも着飾った様子の母親の意図がいい加減読めて来て最早何も言えない。発言の権限さえ俺は持たないのだ。だって俺はか弱い中学生男子(二年)。母親の強い言葉には頭の上がらない。…あ、これは親父もそうか。
そんな訳で俺は泣く泣く自室に追い出され、いきなり言い渡された家庭教師の先生とやらが来るまで部屋を片付ける羽目となった。(別に小汚い訳でもないしこれで良いと思うのに。と言うか俺は家庭教師が来るのを認めた訳じゃない。幾らこの前の中間で赤点取ったからって……うん、まぁ確かに数学と古典のタブルは痛いかもだけど、あと化学とかすれすれだったよ…な?)

……一瞬にしてこれから起こるだろう出来事に気が落ち込む。そして気が付けばいつの間にか俺はいつもの部屋着に着替えていて、そこらに置いといたままのCDをラックに戻して漫画なんかも一応棚に片付けた。散らかってるって言っても所詮はそんなもの程度で見事に綺麗な内装に仕上がった部屋に小さく溜め息。無駄に疲れた気がするとガシガシ頭を掻いて壁に掛かった時計を見上げれば、長針と短針は丁度約束の六時前を指していた。





「………」

「ほら陽介、ちゃんと先生にご挨拶なさい」

「へ?」

「良いんですよ、年頃の男の子ですし…今日いきなり顔を合わせたんじゃ逆に萎縮するのは当然ですから」

なんだなんだなんだ。
これは何だ。どうした。一体全体どう言う状況だ?家庭教師の先生とやらが今日ウチに来て俺に授業を教えて、その相手の事は確かに詳しく聞きそびれてはいたけれど…ちょっとお母様?いつもの恐怖政治を取り仕切るような顔は何処に行きましたか?やたらとにこにこ笑って俺の背をポンと優しく叩く手はいつもの拳骨を作るそれと本当に同じなのか。…否、と言うかそれよりも今もっと大事で重要なのはそんなんじゃあない。
この、やたらと綺麗な人は誰だ?

染めているのかそうでないのか初対面な所為でその辺りの事は分からない、短く切り揃えられた灰色の髪。目許に掛かるくらいで控えられたその下には髪よりも色素の薄い銀色掛かった銀灰色の一見冷たそうな印象を見せる目。正直クラスの女子や女性教諭なんか目じゃないくらい真っ白で滑らかな素肌をしたその人はまるで雑誌に出て来るモデル並みの体型で黒を基調としたシャツにズボンを穿いて華奢な身体を強調していた。
片手には薄い鞄を持って母親と玄関先で暫しの談笑を交えるその人は、笑うとさっきまで感じていた冷たさなんて何処にもなくてとても優しそうだった。…思わずまじまじと見つめてしまうと不意にその人の両目が此方に向いて心臓が大袈裟なくらい跳ねた。そして差し出される、頬と同じように白い手のひら。

「よろしく。花村くん」

ふわりとまるで花の綻びのように笑う人。この人が俺の運命の相手だと理解した。
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2008.11.27(Thu)





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