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author 米 [write]

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エメリオーネ 1


(堂主+菜+捜査隊後妻パロで菜々子の運動会)

それはある夜のこと。
珍しく定時に仕事を上がった堂島が帰宅するとそこにはいつものように淡い笑顔で自分を温かく迎えてくれる妻と幼い娘がいた。その内、娘である菜々子の方は何やら落ち着かない様子で堂島を見てきて、それを気付かないほどボケてはいない現職の刑事たる堂島は一体どうしたのかと首を傾げながら妻の葵を見る。
堂島の背広を受け取り腕に掛けて持つ葵はその視線に対して苦笑混じりにちょっと、と曖昧に言葉を濁したがすぐ後で話しますと言ってその時はそれまでだった。ご飯にしますか、お風呂にしますか。まだ二十歳前半の年頃ながら出来の良い妻は堂島にそう尋ね、堂島もそれには仕事で疲れていた為に風呂、と短く答えてネクタイを解いた。葵はそれに頷くと着替えを用意しておきますからと風呂場に向かう夫の背に声を掛け、皺にならないようにとハンガーに背広を掛けて置いた。

そして堂島が丁度良い温度に設定して入れられた湯に浸かり、身体に溜まっていた疲労の大半をそこで癒して出て来た頃には綺麗にアイロン掛けのされた着替えとふわふわのタオルが目の前に鎮座しており、それを身につけて居間の方に出てくると一体となっている台所の板場に立つ葵が丁度夕食の支度をしていてやけに似合う白いエプロンを前に着けながら振り向くとお湯加減いかがでした?と笑った。そしてもうすぐお味噌汁が出来上がりますから、たくあんも買って来てありますよと気立ても何もかも言う所なしな葵は堂島に藺草の香りがする畳敷きの席を勧め、義娘に当たる菜々子を呼ぶと仲良く並んで皿や器を取り出し、炊き立ての白米を茶碗に持ったり仄かに生姜の良い香りがするおかず(どうやら今日は豚の生姜焼きらしい)が千切りのキャベツと共に載せられ運ばれてくる。菜々子は先程のように父である堂島を見ると少し迷うような仕草をちらちらと覗かせて来たが堂島はあえて尋ねることはせず、葵の言葉を信じて待つことにした。すると菜々子は安心したようなそうでないような、妙に複雑そうな顔になってやがて笑った。

「おかあさん、お皿ならべたよ」

「ありがとう菜々子、じゃあこっちもお味噌汁持ってくからおぼん貸してくれる?」

「うんっ」

とたとたと義母の方に掛けていく菜々子の姿は最早誰よりも葵を慕っていた。良くある話ではこう言う連れ子の人間と結婚した相手はその子供と上手い関係が築けずに生活破綻に陥ったり、また逆の話では子供の方が再婚相手に懐くことが出来ずにギクシャクとした関係が長く続くと言うのがセオリーとしてあるのだが、この二人にはそれがまったくと言って良いほどなかった。と言うか堂島が葵を初めてこの家に招いた時から普段人見知りをする性格の筈の菜々子は瞬く間に懐いて帰る時にはまた来てね、と手すら振っていたものだ。その様子には流石の堂島も驚きのあまり言葉すら忘れ、菜々子の手に手を振り返す葵が笑顔で玄関の引き戸を閉めるまで呆気に取られていた。
それが、今から一年経つか経たないかの時期。しかし後から知ったのだが、どうやら葵は当時通っていた大学の外部実習の一環として幼稚園や小学校の子供と触れ合っていたようでその中に菜々子もいたのだと言う。仕事にかまけて家庭を振り返らない自分の浅はかさを感じたようで当時は苦く思ったりもしたが、それも後々で昇華されていった。

「遼太郎さん?」

「おとうさん?」

と、それまで思考の海とやらに沈んでいた堂島を引き上げたのは他ならぬ妻と娘の声だった。
はたと瞬いて意識を戻せば卓袱台の向かいと隣には既に席…と言うか座布団に腰を下ろした二人がいて、食事を置いても一切手を付けようととしない夫と父にそれぞれ首を傾げているようだった。

「…ぐあい、わるい?」

「…大丈夫ですか。最近遅くまで仕事が続いていたからやっぱり疲れているんじゃ…」

「あ、いや、違うんだ。ちょっと考え事をしていてな」

すまん。と慌てたように首を振る。どうやら気付かぬ内に自分は大事な家族に心配を掛けていたようだ。それが分かると、血は繋がってなくとも似た性格をしている母子は心配そうな、気を遣うような表情(それを年端もいかない菜々子が浮かべてしまうとなると、親としてかなり不甲斐ないと我ながら痛感する)を少しだけ和らげて揃ってはにかんだ。あぁ癒されるな…堂島は容姿は異なるが内面や仕草の似た二人に胸の内を人知れず暖め不器用ながら自分でも笑みを浮かべた。
目の前に置かれたのはつやつやとした光沢を一粒一粒放つ炊きたての白米がたっぷり盛られた茶碗と千切りキャベツやスライスしたトマトと一緒に載った生姜焼き。それに加えて出来た妻のことであるからしてダシを取ってから作られただろう豆腐の味噌汁、そして堂島が好物とするたくあんとその他数種類の漬物。いつも思うがやはり美味しそうな食卓だ。昼に持たされる弁当も毎日中身が違って、その中身を考えるのだって日頃の家事をしている葵には大変だろうにそれはいつだって美味しくて堂島が仕事の最中早く昼にならないかと思ってしまうくらいの出来だ。独り身で部下兼相棒の足立がそれを匂いに釣られて一口!と毎度のことながらせがんで来るのだからそれはもうお墨付きもいいところで、それを話せばきっと葵は笑いながらもう一人余分の弁当を作るに違いない。それは愛妻家であり同時に独占欲もそれなりにある方の堂島が許しはしない為決して口には出さないが、間違いない。
娘の菜々子には葵が来るまでの間小さい年をしていてもスーパーの惣菜やインスタント系ばかり食べさせたり簡単な料理をさせて来てしまっていたから誰かの作る温かい手料理が嬉しいらしく、今日も葵の作った生姜焼きを美味しそうな目で見ては早速手を合わせ箸を取ると食べ始めた。

「あ。おとうさん、ちゃんといただきますしなきゃダメだよ」

「あぁ、分かってるよ。…いただきます、今日も美味そうだな」

「…もう、それは食べてから言ってもらえるともっと嬉しいですよ。じゃあいただきます」

ぱちん、と手を軽く合わせて菜々子に続いて箸を取る。早速とばかりに箸をつけて取った豚肉の生姜焼きは良い具合に柔らかくそれでいて味も染みていて、近くの惣菜屋で売っていた生姜焼き弁当なんて今更食えたもんじゃないと勝手だが考えてしまった。同じ男なのに良くもまぁ…こんな味が出せるもんだと家事の才能がからっきしな堂島はつくづく見直すばかり。

「美味いな」

「そうですか?良かった」

「菜々子もおいしいって思う!おかあさんの作るごはん、みんな大好き」

「うん、菜々子に喜んでもらえるなら俺も嬉しいよ。沢山あるからね」

「やったぁ!」

無邪気にはしゃぎ、笑う娘と妻の姿に見ている此方側までのほほんとなる。
菜々子の頭を撫でてふわふわと笑う葵にずず…っと味噌汁を啜って更にたくあんをパリポリと咀嚼し飲み込めば、そこでふと先程のやり取りを思い出した。

カチャン。

「そうだ。さっき話すって言ってた事って結局なんだったんだ?」

「「あ。」」

…あ。ってお前らな。

こんな惚けたとこまで似ている母子に堂島は頭を項垂れた。
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2008.11.27(Thu)





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