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author 米 [write]

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truth


(主人公にベタ惚れな足立)

(好きだよ。愛してるよ)こんなにも有り触れた陳腐な台詞をどれだけ彼に囁いたろう。灰色の綺麗な髪と目をした真っ白な肌の彼はまるで百合の花に似ていて僕の目には眩しかった。それを汚してやりたくて貶めてやりたくて辱めてやりたくて、見下す心を作り笑顔に潜めて近付いたのに僕はいつからか本当に彼を愛すようになっていて、次第に彼から向けられる淡い笑顔に気が付けば依存さえ覚えるようになっていた。後戻りが出来ない、そう感じ始めたのは時が遅かった。動き始めた玩具の人形は電池が切れるまで止まらない。ゲームもエンディングを迎えるまで終わらない。僕の腕の中に収まる彼はとても暖かい温もりを持っていて無警戒にも程があるくらいに身体をそっと預けて来るから、君達が追う真犯人は僕なんだよ、と思わず口に出したらどうなってたのかな。きっと綺麗なガラス玉みたいな目を大きく見開いて冗談だと笑うだろう、そして僕の顔をジッと凝視した後に気付くだろう。だって彼は聡い子だから。僕の事を弱々しい声で詰問しては最後に項垂れる姿を思うと胸が仄暗く鈍く痛む。だって彼は優しい子だから。犯罪者の僕を許せやしないだろうけれど同時に恋人の関係にあった僕を警察に突き出すことも出来ないだろう。見逃すこともなく、ただ彼は泣くだろう、苦悩するだろう。人を二人殺しておきながら何の罪悪も感じない僕を悲しんで、当事者よりも当事者らしく痛みを抱える。そう想像するだけで、僕の中には仄暗い悦びが首を擡げ縋りつく。彼はそれを泣きそうな顔をして受け止め名を呼ぶのだ。(足立、さん)って。

ふつりと細い糸を切らしたように途絶えた眠りから目を覚まし瞼を開けばそこには見慣れたアパートの薄汚れた天井があった。
ああ僕は眠っていたのか、彼ははいない、何処にも。それはそうかだって彼は学生で今日は休日でもなく平日で、だから学校なんて言う下らない沢山の家畜を押し込めるような場所にいるんだ。そして僕も嘗てはそこにいた。

忌々しい記憶。連鎖して思い浮かぶ過去を頭から振り払おうと、日々無駄な捜査でクタクタになってしまっている身体を起こすと近くのテーブルに置かれた見覚えのない四角の包み。ご丁寧に近くに水筒が置かれたそれは確か一般的には弁当と呼ばれるそれで、中の箱を隠すモスグリーンのチェック柄は以前何処かで目にした事がある…かもしれない。寝起きの頭を働かせ手を伸ばせばこんな物を何処で手に入れたのか、家事なんか掃除と洗濯しかまともに出来ない僕はそれしか考えず触れるとカサリと何か乾いた音。

『足立さんへ』

二つ折りにされていた小さなメモは開けそこに綺麗な文字が僕の名を載せていた。几帳面で柔らかな印象を受けるその文字の流れ、僕の周りでこんな風な印象を持つのはと思うと答えは案外簡単に導き出された。手に取って開けばそこには流れるように書き記された僕宛の手紙。

『足立さんへ
こんにちは、いつもお仕事お疲れ様です。以前会った時にご飯を作る暇もなくてインスタントばかりと聞いていたので、家の昨日のお残りも入ってたりしますがお弁当を作りました。口に合うか分かりませんが食べてください。あと他にも、勝手にお邪魔しちゃいましたが冷蔵庫の中にパック詰めしたおかずを入れさせてもらいました。お節介だったらすみません。…けど、身体を壊さないよう気を付けてくださいね。

東雲 葵』

「…はは、そういや合鍵渡しといたんだっけな…」

まだ軽い気持ちで付き合っていた頃、堂島さんの家に足を運んだ事はあるけれど僕の家には来た事がないと言っていた彼にならあげるよと言って渡していた合鍵の存在。とは言えそれが実際に使われる事はなくて(彼が来るとき僕も一緒だからだ)僕もそんな事は頭からすっかり抜け落としていた。けれどまさか僕の寝てる合間に彼が来て弁当を置いて行くなんて思わなかったし僕も他人が来て目を覚まさなかったなんて仮にも刑事である身ながら情けなく思った。

メモに書かれていた通り、独り身には持ってこいのサイズをした冷蔵庫の中にはそれまでビールや安売りのキャベツとちまちましたツマミしか残っていなかった筈が、今では綺麗にパック分けのされたおかず数種が詰められていて、そのまま取り出してレンジにでも入れたらすぐ食べれそうな形になっている。
どれも全て手作り感があって美味しそうで、誰かの作るご飯なんていつぶりだろうと目を眇めた。それは冷めたような気持ちと共に込み上げる熱でどちらともつかない酷く曖昧な感情。僕は彼を蔑み貶めたいと思う一方で、彼の清くまっさらな心に溺れ目眩を起こしている。

誰より真っ直ぐで優しく強い彼に、僕のような人間は本当は似合わないんだろう。それを自覚していながらも僕は伸ばす手を下ろせない。いつしか彼から伸ばさせようと目論んですらいた形勢が逆転して、僕は彼からの愛を強く求めてしまっている。

おかずの詰められたパックは冷蔵庫に入れていたお陰ですっかり冷たかったけれど、蓋を開けて一口摘んだ口内から広がる味はとても、泣きたくなるくらいに温かった。



(好きだよ。愛してるよ)
今その気持ちに嘘偽りは、ない。
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2008.11.27(Thu)





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