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author 米 [write]

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アインザッツ


堂主+菜前提花→主(後妻パロ前話)

(そして君は、俺にとって限り無く近くて遠い高嶺の人となってしまった)

「は?結婚?」

「うん」

その話を聞いたのは通っている公立大学のカフェテラスの一角で。白い丸テーブルに向かい合って購買で買った惣菜パンの封を開けてた俺は、対して冷凍物一切なしの手作り弁当を持参して食べる親友の突拍子もない台詞に口をぽかんと開けて惚けていた。

「…えー、と…その、色々聞きたい事があるんだけど…誰が?誰と?つかなんでそんな話にいきなりなってんだ?」

本当に訳が分からない事だらけだ。だって俺、花村陽介はこの日高校時代からの親友である東雲葵に対して長年(と言っても出会ってから四年くらい)耐えに耐えて来た脱・分厚い友情の壁!を夢見て一世一代の大告白をしようと此処数日悩みに悩んでつい昨日それを決意したんだと言うのに、好きな相手からいきなり結婚なんて言うあまりにタイムリー過ぎる単語が出て来て一気に嫌な汗が吹き出て来た。

(ま、まさか俺の知らないところで東雲の奴、女が出来てたんじゃないだろうな…!)

それはマズい。非常にマズすぎる。何故なら俺は男で、東雲も中性的な小綺麗な顔をしてはいるがれっきとした男で、昨今じゃ法律の改正とやらで同性同士の婚姻も認められるようになりはしたものの、依然近場じゃ異性婚が割と多くて都会ほどは同性婚に対する目は優しくなく、だからもし東雲が女を作りでもしたら異性同性のどちらかで言うとやっぱり選ぶのは女だろうから勝ち目なんてないに決まってる。俺は東雲と出会った高校二年の春からこいつに首ったけの状態なんだ。気付いちゃいないだろうけど東雲は同性とは思えないくらい綺麗で、可愛くて、頭も良ければ運動神経も良いと言う生まれながらの万能人間で(とは言えそれには語弊があって、東雲は昔からコツコツ勉強をしたりして来たから今出来るのだとその表現に苦笑していた)、更には手先も器用で家事なら任せておけと言わんばかりに昼はいつだって自作の弁当を片手にパリッと糊付けされたシャツを袖に通していた。

そんな見た目も中身も良い東雲を周りが当然放っておくなんて事はなくて、いつだって東雲の背後では熾烈な争いが繰り広げられていたのはまだ記憶に根強く残っている。
特に同性から慕われる事の多かった東雲は影では中三で族を潰したと言われていた後輩の巽完二にひょんな事から懐かれていたり、俺が一時期好意を抱いて寄せていた先輩の弟である小西尚紀や同学年でバスケ部だった一条康、外に出ればバイトをしていた頃に出会った家庭教師先の子供にまで好意を寄せられていたとかないとか。…こう考えてみるとどれだけ守備範囲?が広いのか…まぁ大体は親友兼相棒の俺が身体張って防いでたけど。(そう言えば腐れ縁の里中辺りは呆れたようにそれを見ていたんだった)

高校を卒業してからも東雲は近く(と言っても電車で幾つか駅を越えなければならない)大学に進学してそこで教育学を学んでいて、俺は正直なところ進学か就職か特に拘りとかはなかったんだけど東雲が進学するならと動機は不純だがそっちに付いてった。(専攻は違うけど)
けどお互い付き合いが長くなると何だかんだで告白の踏ん切りと言うかタイミングが掴めなくていつまで経っても友人からのステップアップが出来ないままだった。それが結局今日と言う日まで長引いて、更には最悪の単語を東雲の口から吐き出されるようになって、今になってからじゃ疾うに遅いと自覚しながらやはり後悔せずにはいられない。自慢じゃないが俺は悪い方の勘ばかりが働くんだ。だからきっとこの先の言葉を聞いたら、俺は、この恋を言葉に表す前に枯れ果たしてしまう。

「しの、」

「俺、今結婚を申し込まれてるんだ」

「……」

あぁ。
やっぱり駄目だった。危機感を感じる頃には何もかも遅くて止めに入るのだって一歩後。やっぱり東雲は自分が結婚する事について話したかったんだ。

「だから花村に相談と言うか報告と言うか…知らせておきたくて」

親友だから、この言葉がこんなにも重くて堅い鎖だなんて思ってもみなかった。申し込まれてるだけならどうしてそんなはにかむような柔らかい顔をしてるんだとか、もう口に出せないくらい、相談だとか言ったけどもう東雲の中じゃ答えが出てるも同じのそれが俺の前には示されてた。

「相、手は…?」

「それが…実は、」

聞かなきゃ良かった。
けど勝手に動いた口は東雲の言葉を更に促してしまって後戻りなんか出来なかった。

「堂島遼太郎さんって言うんだ。…ほら、刑事の。高校の時に間違って補導されたことあるだろ?あの時俺達を聴取を担当した人」

そんな奴、知るかよ。
俺は今までお前しか見てなくて、お前の事しか興味なくて、でも確かに思い出してみればこいつが転入して来た春に俺はこいつと軽く騒いでそれを何事か間違えた警官に補導された事があった。そんなのもう苦い記憶に刻まれていて俺としては思い出したくもなかったけど、東雲は当時事情聴取を担当したと言う一回り近く年の違う男に好意を寄せられてたと言う。(実のところ当時の接点はそれまでで、大学に進学した辺りで学童保育を目的とした授業で行った幼稚園でその男の愛娘と知り合いそれが二度目の邂逅の切っ掛けになったらしい。バツイチ子持ちのいい年したオッサンが良くもまぁと陰っぽい事を思いがちになるのは大目に見てもらうとして)
東雲は俺が今まで一緒にいた年月の中でも見せた事のないような柔らかくて穏やかな、優しい優しいあったかい笑顔をふんわりと音もなく浮かべるとそれが無自覚だと言うのが悔しいくらい、綻んだ甘い声でほんのり頬を赤らめて長い睫毛の目線を伏目がちに落とした。

「…じゃあ、お前はどうするんだよ」

あぁもう、そんな顔されたらどうしろって言うんだ?俺はお前が好きで好きで、好き過ぎて、頭がおかしくなっちまいそうだけどそれでもやっぱり好きなお前の幸せは何よりも願わずにはいられなくて。恋人の関係に憧れながらもそれとはまた別の親友って言う居心地が良い立場にどっぷり浸かってた俺には堂島って言う刑事みたいな勇気がなくて、結局はタイミングがどうとか言う言い訳を作って一人勝手に二の足を踏んでいただけ。もしフられでもしたらって、そう考える度に過ぎる亀裂の入った関係に恐怖してばかりで。弱虫の俺には何か言う資格なんて、元々なかったんだ。

「…俺は…」

初恋は実らない。昔からよく言われるジンクスだけれど俺にとっては初恋に限らず恋をする度恋は実る前にボトリと地面に落ちている。
どれだけ思っても俺が好きになる相手は俺じゃない誰かに恋をして、代わりにそれを実らせるのだ。

「俺は、前は一度断ったんだけどやっぱり、…受けようと思う」

ほら、やっぱり。

心の中で丸々と肥えて実っていた恋の果実はまたも地面に落とされた。

「…そ、か…。じゃあ、おめでとうって言わないとだよな…?」

食べ掛けのパンの味も憎いくらい晴れ渡った青空も、胸に広がる苦い思いの前には霞んで見えた。



(さよなら、俺の四年間の恋!)
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2008.11.27(Thu)





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