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author 米 [write]

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精一杯きみを守る


花♀主

その日フードコート集合!と言ったのは誰だったか。
言い出しっぺの人間がまだ来ていないにも関わらず彼(と言うか彼女)がそこに先にいるのはいつからか当たり前の事になっていて、今日こそはと花村は彼女が来る前にと先を急いてみたのだけれど、一体いつから待っていたのかやっぱり彼女はいつもと同じ場所、同じ席でいつもと同じカフェオレを頼んでそこにいた。



四月に転入して来たばかりで学校内での成績上位キープは大変だろうに、彼女…東雲 葵は最近部活とバイトも同時期に始めたらしくその生活は傍から見ても充実していて、同時にとても大変そうだった。
話を聞いた限りでは花村や仲間達ですら知らぬ内に校内でも東雲が話すとは思えないような意外な人物とも親しくなっていたりして、校外に出たらそれこそ老若男女問わず動物までも東雲を知らない者はいないと言う事実にまで出くわした。(しかもどうやら彼女は見た目お人好しと言う訳ではないのに元来の優しい性格ゆえか、話し込む内に頼み事を自然と引き受けてしまうらしい)

だがそれは普通の学生としての生活リズムを刻んでいれば、ちゃんとしっかりして見えるのだと言う話であって。こう見えて自分らは生憎『普通』の枠から少しだけ飛び抜けている若者なのだ。
切っ掛けは春に起きた一つの事件だが、あれから数ヵ月が過ぎあれから仲間も増えて色々な事実(とは言えまだ事件の全容は憶測を抜けず見えてないことも多いが)に目の当たりにする事が多くなっていたけれど、次第に事件も大きくなりつつある今、自称特別捜査隊の花村含むメンバーを纏め上げるリーダーとしての責任を負わせる羽目になってしまった東雲の両肩に伸し掛かる重圧は素面でいても辛い筈だ。
なのに学校じゃわざわざ部活に入ったり知り合いを多く持ったり外じゃバイトをして頼まれ事を引き受けて、家に帰ったら従姉妹の女の子の面倒を見ながら家事をして勉強をして…たまの休みにもなると誰かがテレビの中にだとか遊ばないかだとか誘って来て、本当に一体いつ、東雲は休んでいるのか分からない。

仮にも花の女子高生とも呼ばれるような女の子である彼女が女の子らしさをわざわざ捨てているようで、密かに好意を抱いて寄せる花村には気が付いた時には悲しくて寂しくて、あと、一人の女の子にリーダーを頼んでしまったと言う自分の不甲斐なさ情けなさに後悔しても既に遅かった。だって東雲はいつだって何でもないことのように笑うから、そう見せるから、単純な自分らはそれをどれだけ鵜呑みにして来たんだろう。
幾ら始めから特別な力を持っていても東雲だって元は普通の女の子。表情はあまり変わらないけど人間味が全くない訳じゃなくて冗談も言うし、たまにだけどちゃんと笑う。初めて見せてもらった笑顔は本当に綺麗で可愛くて、はにかむような淡い感じが花村の心臓をあっさり掴んだくせに全く離そうとしなかった。

前は告白する前に失恋したけど新しい恋はもう既に目の前へと来ていたのだ。だから、今度の恋は例え次の春には離れてしまうとしても諦めたくはない。自分が諦めなければ良い。いつだか東雲は、この町で過ごす間今まで出来なかったことをしていきたいんだと言っていた。
成績のキープ、部活動の参加、町の人と親しくなること、バイトもして家事もして、誰かの為に自分の為にもし『出来る』可能性があるならそれを掴むんだと。それが東雲の頑張る理由。花村はそんな東雲の姿にまた一つ彼女を好きになっていた。

学校の授業が終わった後で、昼に高くなった陽が未だ少し横にずれたくらいで落ちる様子のない時頃。
天気の崩れる様子は暫くないと朝のお天気お姉さんが言っていたのを思い出しながら、暖かい陽に照らされた灰色の髪はいつもよりもっと綺麗にきらきらと輝いていた。

いつも自分らよりも先に来て待っていた東雲を今日こそは待たせるものかと意気込んでいた筈が、花村が目にしたものはいつもと少しだけ違っていた。いつも背凭れに軽く背を預けて力を抜くように腰掛けていた東雲は同じだが、その表情はまるでうたた寝しているのか常に見ているそれとは違ってあどけない。
静かな寝息をすぅすぅと立てて校則の守られた制服のスカートの膝上には両手が包むようにして持たれたカフェオレの紙カップが置かれ、寝入ってしまうくらいどれほど仲間を待っていたのか既に温くなったそれを抜き取ってテーブルに置くものの分からない…けれどきっとまた、テレビに入ろうと誘われたから授業が終わってすぐに学校を出て準備を済ませてから来たんだろう。東雲の席の近くには雨の日に四六商店で買った薬とかが詰まった鞄があって、それを見る度に花村は苦く笑った。

(これじゃあ俺ら、マジでコイツに頼りきりじゃん)

最初にリーダーと言う役割を自分が押しつけておきながら…ではあるが、こう言う小さい用事くらい自分に頼ってくれたら良いのになんて思うのも勝手だろうか。
疲れているのなら疲れているからと言ってくれたら良いのに。普段見ない姿を見れたのは嬉しいけれどそこはやっぱり男としてやるせない物がしこりのようにある。本人は全く気付いてないかもしれないが、やっぱり好きな相手に頼られたいと思うのが男と言うもの。最早最近では定位置と化した東雲の隣りにそっと静かに腰掛けるとかくん、と小さく傾いた頭に目が行きついそこを撫でながら思う。

(ホント、なっさけねぇ…)

「東雲」

(弱音を吐いてすらもらえない)

「…東雲、」

(それは俺がまだ弱いからか?)

「…ん…、はな…ら?」

それを口に出したらきっと東雲は怒るだろう。否定して、花村は弱くもないし頼れる仲間だと言うだろう。ただ頼り方を上手く知らないのは逆に自分だと曖昧に苦笑するのは東雲の方。安易に思い付くそれに無意識の内に小さく名前を呼べば、吐息混じりの舌足らずな掠れた声がいつもの淀みないそれとは異なって東雲の唇から漏れた。その姿はまるで普通の女の子だった。
髪と同じ色の長い睫毛をふるふる揺らして目を覚まそうとする仕草、間近で見るとふっくらとした甘くて柔らかそうな唇から漏れる吐息、制服の襟元から少し覗く白い首筋に顎の細いラインから掛かった薄い陰影が色っぽい。
この数ヵ月間事件を追うばかりに急いて自分の中にも知らず知らずの内に溜まっていたらしい根っこ部分の疲れがそれを感じた途端、瞬く間に癒えていくみたいだ。

(やっぱりお前は凄い奴だよ)

疲れを溜めてるのは自分なのに、寝てる姿だけでも花村を癒してしまうなんて大した才能だと笑う。名前を呼ばれた所為かみじろいで起きようとする東雲に気が付くとそれを制して誰もいないし見てないのを良いことに、傾いた頭を寄せた肩に乗せてやってそのまま顔を覗くように話し掛ける。

「まだ寝てろって」

寝起きはぼんやりしがちだと前に聞いておいて良かったと東雲のことならなんでも知っておきたいと常日頃から暇さえあれば会話していた自分を褒めたくなる。
そして案の定、花村が予想した通り寝ぼけた東雲はいつもの凛とした声とは真逆のふにゃふにゃとした声を出して目を擦りながら頷いた。

「ん…?…うん…ありがと…」

「!…いーって、それよかほら、まだ誰も来てないから」

(…全く、本当に不意打ちの上手い奴だよな)

お前は…と花村は茶褐色の目を細めそれなりに整ったその容姿をいつになく穏やかに和らげて呟いた。寝ぼけた声を出す東雲の灰色の髪を指に梳いて撫で二言三言を交わすとじきに戻った静かな寝息に先程言われたばかりの礼に頬が緩む。
花村の手を嫌がらず寧ろ猫のように甘える東雲が本当に可愛くて愛しくて大好きで、もう少しだけの間、この場所に誰も来ないことを細やかに願ってみた。



その後、いつの間にか寄り添うように身体を密着し合って更には髪に触れたまま釣られて眠ってしまった事が後からやって来た里中と天城に見つかり半強制的に(蹴りと殴打のラッシュで)起こされたものの、更に完二とりせとクマの三名(主に後者二人)が羨ましいと騒ぎ立てたのがNGワードに引っ掛かってテレビの外にも関わらず戦闘が勃発仕掛けたりテレビの中に入っても東雲に花村をメンバー入り拒否を申し立てた一部が背後から隙を見て襲いかかって来たり追撃を誤ったりバッドステータスや後援アナライズを花村にのみしなかったりなど、その日の探索は花村にとって散々なものとなったのは言うまでもない。(因みに直斗はちゃっかり東雲の隣りをキープして女性メンバーでのみ再編成したチームで戦闘に参加していた)

けれどそんな花村を見ていた東雲の頬が、目を覚ました時に仄かに赤らんでいたのは誰も知らない秘密。
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2008.11.27(Thu)





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