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author 米 [write]

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俺と先輩と夏休み


それはある晴れた日の事。
残念ながらお世辞にも頭の出来がよろしくない巽完二くんは我らが特別捜査隊のリーダー兼一つ年上の先輩である東雲に次の定期テストに向けて教えを請うていた。

…東雲の住む、堂島さんの家で。

「お待たせ、完二。飲み物はリンゴジュースで良かったか?」

「あっ…ど、どうも。なんかわざわざすんません…」

「ふふ、そんな堅くなるなよ。それよりどの教科が一番分からないんだ?」

家長の堂島は勿論仕事で、小学生の菜々子は今日はご近所住まいの友達の家でお泊まり会をすると言って昼に完二と擦れ違いで出て行ったきり今は留守にしている。よって必然と家には二人きりとなり、普段三人暮しをしている家も部外者の完二から見れば今はとても広く思えた。それを東雲も自覚しているのか、わざわざクーラーのついた一階でなく二階の自分用に割り当てられた部屋へと連れて来る辺り窺える。
別にこれが初めてと言う訳ではないのだが、こうして改めて東雲と二人きりで部屋にいるのだと思うと完二は緊張した。冷えた飲み物を、と東雲がお盆を持って戻って来た時にはらしくなく正座なんてものをしていてつい笑ってしまったのだが、変に畏まった後輩が可笑しくて後は何も言わずに網戸にした窓と扇風機から来る風に少し涼んでから教科書を開かせることにした。

「あ、えと…数学と英語…っス」

「…典型的だな。それじゃあ先ず数学からにしようか。基礎がどれだけ出来てるか見るから、今から試しに小テストでもするぞ」

「うぇっ?!」

苦手科目は数学と英語。まるで絵に書いたような分かり易さだと苦笑を漏らし東雲は完二のやけに綺麗な教科書をパラパラと捲る。去年まで通っていた都会の高校では今の時期どの辺りまで習っていたかどうか思い出しつつ適当に簡単と思われる問題をルーズリーフにサラサラと書いていくと、間の抜けた後輩の声にまたも吹き出して目を細める。
色を抜いて白っぽい完二の髪を悪戯にくんっと引っ張れば「痛っ」と上がる悲鳴に自業自得と一言。

「こら、変な声出すなっての…それに小テストっても中学の簡単な問題ばかりだからさ。数学なんて小中が基礎で高校からは応用みたいなものばかりなんだから大丈夫だよ」

「…ッス」

「よろしい。…任せとけ、完二、休み明けのテストの時にはバッチリ成績上げてやるから」

見た目は厳つくて周りにも何かと誤解を(色々)招きやすい外見をしているけれど根っこの部分は誰より素直で『良い子』な完二だ。きちんと返事をした事に満足げに東雲が頷くと代わりに差し出したルーズリーフ一枚。思わず受け取ればそこには乱れの一切ない綺麗な字で10個ほどの数式が書かれていて、更に上の端っこには所要時間15分以内と無慈悲なコメントまで。
びっくりした完二が「先輩!」と声を上げるもそこには既に何処から用意したのかキッチンタイマーに時間をセットする姿が。さっきまで先輩らしく格好良いセリフを吐いてたのに感動と憧憬を覚えていたのに、唖然としている内に東雲はやたらと小綺麗な顔立ちで普段はまるで見せない満面の笑顔を浮かべて言った。

「頑張れよ、完二。今回は特別易しい問題ばかりだからな?」

「せ、先輩…!!」

綺麗で強くて頭が良くて、頼れる我らがリーダー兼先輩は単に優しいだけじゃなくて後輩にも実は厳しかったのだと完二はその日、深く深く思い知った。



「あ。でも一個足りとも間違えたり時間内に解けなかったりしたらペナルティな」

「お、鬼…!」

「まぁ待て。その代わりちゃんと出来たらホームランバーやるから。それにテストの成績が良くなったらお前の言う事なんでも聞いてやるし」

「…!!な、なんでも…っ」

「?あれ、何いきなり燃えてるの?…ホームランバーそんなに欲しかったのか…」

結果。
完二はない頭をいつになく絞りに絞ってどうにか制限時間内に問題を解き切りホームランバーを見事獲得し、更には奇跡と言うくらい休み明けのテストを上位に食い込んだ。
その頃には約束をまるで忘れていた東雲が後日悲鳴を上げる事になるとは、まだ誰も知れない。
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2008.11.27(Thu)





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