the latest //  案内・作品一覧


author 米 [write]

スポンサーサイト


上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--.--.--(--)



ビフレストの別れ道


ビフレストの別れ道

「気が付いたら俺の胸にはあなたが持つ拳銃が発砲した鉛玉が風穴を開けるようにして埋め込まれているんです」

仕事の帰り道でたまたま東雲くんと出会って少しの間一緒に歩いていると、彼の手元からは時折がさがさと手に提げた買い物袋が音を立てていた。今日は何を作るんだい?と問えば近所のお豆腐屋さんで買ったらしいさつま揚げを甘辛く煮て明日のお弁当に入れるのだとか、夕飯には豆腐の厚揚げを軽く焼いておろし生姜と一緒に出すのだとか、なかなか若い子が考えるような献立じゃなかったけれどそう言った他愛ない話を交わしていた最中、不意に紺碧色の空が帳のように垂れ下がって来た頃を見て押し黙った東雲くんが何処か遠くを見つめて言ったのには流石に処理が追いつかず理解した時にはすっかり肝が冷えていた。

「ハ……なに、いきなり言ってるの東雲くんてば。それって冗談にしちゃあ質が悪すぎるよ?…変な夢でも見た?」

「…夢…と言って良いのかな、けど確かに冗談にしてはアレですよね」

「はは、そうそう。大体そんな事ある訳ないじゃない、僕は刑事できみはただの学生なんだから。刑事が銃を向けるのは犯人だけだよ?…もうビックリしちゃったなぁ」

「すみません」

ひたりと背中に伝う冷たい何かに意識を戻せば大層驚いた素振りを見せて僕は顔に乗せる表情をすぐさま戸惑いと怒りに染めて言う振りをするのだけど、彼は少しぼんやりとしたまま首を傾げて視線を僅かに落とした。いつの間にか暗くなった辺りの景色にぽつぽつと点り始めた電灯の明かりが灰色のコンクリートに長い影を作るのを見ているようで、僕の答えも聞いてるようで聞いていない雰囲気だ。けれど尚も彼は「でも俺には、いつかそんな日が来てしまうような気がするんです」と力なく漏らし、目先の見えないとても朧気で危うい感じが自分の中に感じられているのだと続けた。

「…何だか変なこと言っちゃいましたね、すみません…今言ったことは忘れて下さい。最近あまり眠れてなくて疲れてるのかも」

そう言う彼の横顔は辺りが暗くて曖昧にしか判別がつかないけれど確かに何処か疲労と言う憔悴の気配を纏わりつかせていて、ぎこちなく浮かべたらしい笑顔は折角整った容姿をしてるにも関わらず敢えなく空回り。こんな姿はいつも彼の近くにいるオトモダチだって滅多に見たことはないんじゃないだろうか。心の片隅でそんな意地の悪い思考を巡らせながらいると、その一方で東雲くんがこの事件の裏で僕がしていることをうっすら勘づいているのではと危惧をする。
別に罪悪を感じている訳ではないがそうだとすると彼もまた他と同じで消さなければならないのだろうか。この、いっそ儚くすら見える笑みを浮かべて吐息する彼を。

(そう思うときみに会わなければ良かったと心底思うのに)

それもこれも僕が女二人を道楽のようにテレビに放り込んだ所為なんだろうけど。まさか外から来たばかりの東雲くんが関わって来るとは思わずにいたのが唯一の誤算で、そんな彼相手に気付けば視線を追うようになっていたのもいけなかった。
僕が彼に銃口を向ける、なんてこと。夢にも思わないだなんて方がまるで嘘だ。僕はいずれ彼と彼の仲間に銃口を向けて引き金を引くだろう。何故ならそうせざるを得ない状況にきっとその時にはなっている。今も彼が疲労している本当の理由が手に取るように分かってしまうのだから、きっとそうだ。



僕は気が付けば彼を引き寄せ細い肩口にまるで縋るようにして頭を乗せていた。がさりと音を立てて彼が持っていた買い物袋が震えたけど、気に掛けずそのまま身長差のある身体から伝わるあらゆるものを感じて覚えておこうと触れる。
年上でありながら普段あまり威厳がない雰囲気を醸している所為で、やっぱりいきなり同性である僕からそんな事をされたら抵抗をするだろうと片隅では思っていたのにそれを試みないのはどうして?遠慮から?戸惑いから?…それとも期待をさせる気でもいるの?ダークグレーのスーツを羽織る僕の肩に彼の手がそっと触れた気がして、それは錯覚だと都合が良い思い過ごしだと振り払いたくても振り払えない。僕はもう彼に、いや最初から既に彼にこうして触れて良い訳もなかったのに芽生えさせた恋の気持ちに目を背ける事が出来なくて彼に全てが露呈し気付かれる前にこんな妄想のような現実を早く無へと帰さなければならないと強くただひたすらに思った。

『気が付いたら俺の胸にはあなたが持つ拳銃が発砲した鉛玉が風穴を開けるようにして埋め込まれているんです』

それはきっと夢じゃない。
近い未来に必ず起こる僕たち二人の悲劇。(だからそうなる時にはきみが僕を殺して欲しい)(これは後悔はしないけれど僕の細やかな望み)

意識の近くて遠い場所でパンッと銃声が一つ聞こえた。
スポンサーサイト

2008.11.27(Thu)





/
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。