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author 米 [write]

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絶望は僕の隣


(影主。死ネタ)

冷たいタイルの上に膝を折って抱き寄せた身体はふわりと軽くてまるで抜け落ちた羽根の欠片みたいだったと詩人のように考えてみる。けれど背から脇に差し込んで回した腕を枝のように引っ掛かけて垂れ下がる黒い制服に包まれた袖はそのまま力なく垂れ下がり、その先から望む紙のように白い指先はぴくりとも動かずまるで涙が頬を伝うように先端にぽたり。一滴をゆっくりと落として泣いていた。

「これで…漸く俺のものだ」

暗い色をしたタイルの床に映えるような赤い色彩。最早返らぬ答え。見返されない双眸。抱き締めた身体を寄せる腕には自ずと力が籠り、呟く喉にも戦慄くような歓喜が満ち溢れて胸中を潤した。…そんな気がした。思うように必死になった。
存在としての形は確かにそこにあると言うのに中身はもうないのだ。初めはただ欲しくて欲しくて、全ての重圧を受け止めて無意識の内にそれを押し込める自分の表を奪おうと(守ろうと)、して、突き破った筈の殻を逆に自分の腕に閉じ込めたと確信した時には何もかも遅くて。特別な存在は他とも特殊であるのを内側にいた自分が失念していたなんてとんだお笑い草だ。自分達は他よりももっと繊細で、極めて曖昧な薄い境界線の上に成り立っていた。そして常に密に背中を合わせる様子はまるで溶け合うような精神を水面の上下のように保っていて、そう、その唯一の均衡が崩されてしまえば衝撃の多い方が支えと言う支え全てを失くしてしまうのは当たり前のことだった。

「…俺はお前で、お前は俺…これで手に入ると思っていたのに」

そもそも自分達は二人であり、一人だった。だとすれば手に入れる以前に自分は自分のもので他の手には一切触れられない。気付くのが遅かった、遅すぎた。喉から手が出る程に求めたそれを自ら壊すなんて子供のすることなのに。
今こうして項垂れ、力なく凭れ掛かるもう一人の自分、普段表に立つ側の片割れに伏せられた瞼の奥が何故だか酷く焦がれて思えた。目を覚まさない、銀灰色の双眸。我ながら整いすぎているとさえ思うこの白い容貌に縁取る睫毛すら細長く艶を乗せ、薄い土埃と滴の後に汚れた頬すら美しくて愛しかった。高くもなく低くもない、あの中性的な声はもう、膝を抱えて深層の海の中ですら泣かないのだ。

「あおい、あおい、あおい、あお、い。…葵。ただ愛してただけなんだ。今も愛してるけど、でも俺は本当はこんな形でお前を求めたんじゃなくて、初めはそうだお前を守りたくて。お前の痛みを理解しない周りからお前を守れるのはこの世で唯一内側にいた影の俺しかいないんだと思って、それから次第にお前を守りたい気持ちから救いたい気持ちに心が成長して、表に出たいと願うようになって、俺ならお前を傷つけたりしない泣かせたりしない守ってやれる縋れるのも頼れるのも俺しかいないように、させ、て。…それから、それから……お前にも、俺を認めて欲しかった」

俺を愛して欲しかった。

指から伝い落ちる赤い滴はもう泣かないお前の今の涙に見えた。そして冷たくて重たく感じる筈の身体を掻き抱いて、その残された僅かな温もりと軽さに目眩を覚えながら直に迫り来る自分自身の崩壊にゆっくりと、俺は鈍く輝く金目を伏せた。

(結局、器を壊したこの世界で最後に残るのは破滅だけ)
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2008.11.26(Wed)





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