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author 米 [write]

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きみはバニラ


(ご飯にお呼ばれ足立)

捜査が進展した訳じゃないけど今日は珍しく早上がりで帰宅途中の僕はここらの寂れた商店街を抜けて少し離れた距離にある大型店舗のジュネスに立ち寄って、独り身ゆえに空しい夕飯を摂るべく地下食品売り場の惣菜コーナーへと足を向けていた。若い男の一人暮らしなんてその日過ごす食事の内容とか高が知れていて、カップ麺や出来合いの惣菜とかに頼りがちになるものだ。しかもこんな町じゃふらっと立ち寄れる店も逆に少なくて、刑事なんて言ういつ事件に駆り出されるか分からない生活が不規則な職に就いてるとこんな時料理上手な彼女かなにかいたら便利だし楽なのになぁなんて阿呆らしいことを疲れた頭で考えてしまうのもまた仕方がない。けどやっぱりたまには誰かが作ってくれた温かいご飯や味噌汁とか食べたい気持ちがあるのも否定しきるどころか寧ろ欲して止まず、(あ…そういやこの前堂島さん家に厄介になった時あの子がご飯出してくれたんだっけ)とあの子イコール堂島さんの家にただいまご厄介中の親戚の子供を一人頭に浮かべる。

「現役男子高校生の割に随分と手慣れてたなぁ。しかもかなり美味しかったし」

あれならいつでもお嫁に行けちゃうね、なんて灰色の髪に綺麗な銀灰色の目をした少年の姿を思い出して一人笑う。確かあの時ご馳走になったのはダシ巻き卵にほうれん草のお浸しと肉じゃが、お味噌汁だったかなぁ…もしかしたらもう随分と連絡を絶ったままの親の飯より美味かったかも。お残りですけど良ければどうぞ、なんて言ってたけどあれはどう見ても出来たてのほかほかだった。もしかして堂島さんて家にいる時はいつもあんな美味いもの食べてるのかと思うと、まるで素敵な奥さんを貰ったようでちょっと…いや、かなり羨ましかったりする。たまに泊まり込みになると署の受付から着替えと弁当を受け取ってるのを見掛けてそれが更に周りから羨望の的になるのをあの人は知らないだろうけど。(この前入ってた唐揚げとかこっそりお裾分けして欲しかった。実は彼の存在は署の中でも密かに評判だったのだ)
しかし我ながら、そんな子供っぽい考えを抱いてしまうのはこの茹だるような暑さの下で日々捜査と言う奔走をしてる所為か否か。外より随分と心地の良い冷房が効いた店内を無駄にグルリと回ってから漸く惣菜コーナーに辿り着けば、棚に並べられた小分けのパック加工が施された種類が豊富な惣菜達に相変わらず目移りしてしまう。

「今日はどれが良いかな…って、流石に毎日似たようなモンばっかじゃ飽きるよな…。て言うかそろそろ肉食べたいよ、肉。焼肉とは言わなくても冷しゃぶとかなら…」

だが独り身の薄給では滅多な事では肉と言うその名前だけで豪勢な食事は摂れないのも重々承知の上。けれど悲しいかな、それを理解してはいても尚深く求めてしまうのはまだ年若く体力もある青年男子ゆえの思考で、こんな時なんの仕送りがないのは厳しいなぁとしみじみ思う訳だ。中央から飛ばされた時にはもう溝が出来てたようなもんだし。だったらまだ牛よりお手頃価格な豚が良いかな、なんてすっかり惣菜<肉になってるのには突っ込みは流しておいて、そんな皺の寄った背広の向こう側でふと聞き覚えがある声が二つ。不意に耳に入って来てそれと同時に何やら甘くふわりと香った匂いに意識せずつい振り向けばそこには、彼がいた。

「あ…」

「お兄ちゃん。今日はお父さん、早く帰って来るんだよね?」

「うん、そうだよ。堂島さんが帰って来る頃には二人で美味しいご飯作らないとな」

「えへへ…うんっ!」

日中の太陽の熱とは違った意味で、まるで蕩けしじゃ何かと食事摂るのって大変だろうから…って意味ですよ。だからあの、…良ければどうぞ)

そしてこんな時、人間と言う馬鹿な生き物は普段はいもしないと思っているような偶像崇拝の神様なんてものを簡単に崇めてしまうのだ。だって今の自分がそうなのだから。

(じゃあお言葉に甘えて!)

その日の夕飯は久々に充実した美味しいものだった。
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2008.11.26(Wed)





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