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author 米 [write]

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履き違えの愛


(ただあなたの愛が欲しかった)

なんて、そんな甘い言い訳が通用する訳ないと分かっている。でも、それでも俺は欲しかった、堂島さんの、真っ直ぐな愛情が。

「葵は千里…亡くなった妻に似てる。姿が似ている訳じゃないんだが、その…菜々子と一緒にいる時の雰囲気とか、たまに見せる笑顔とかがな」

堂島さんは時たまに菜々子を寝かしつけた後の酒の席でそう口にすることがある。
俺は堂島さんの奥さんのことを知らないけれど以前菜々子と見つけた写真に写っていた子供を抱いて笑う女性がきっと、この人の大切な人だったのだろうと何となく理解した。そして写真のことを話した数日後、菜々子から焼き増しされたそれを自分にも渡され「家族の証」だと言われた時、たまに俺を見る堂島さんの視線の中に得体の知れない何かが含まれていると気付いていたからそれがなんだったのかを俺は気付いてしまった。
その人とは一切繋がりのない筈の俺を透かして、堂島さんは亡くした奥さん(そしてその人は俺の心に不明な濁りを立てるのだ)を見つめている。その眼差しは一見俺を愛しげに視界に映し、娘の菜々子を見るように柔らかく慈愛に満ちた包んでいるようだが、それは全くの嘘。間違い。

物心ついた頃には俺は既に両親からの愛情を不十分に一人育った。だからそれが何か思い出した今なら分かる。少し前に堂島さんが泥酔状態で夜遅くに帰宅すると、待っていた菜々子を寝かしつけたばかりの俺を見咎めた途端いきなり強く抱き締めながら『葵はあいつに似てる。雰囲気も笑顔も仕草も、菜々子が懐く姿を見て俺は最近思うんだ。あぁ、千里が帰って来たんだ…って。可笑しいよな』なんて、顔を赤くして寝てしまった堂島さんは言って。それにもし気付かないままでいられたなら良かったのに。もしただの『家族』として在れたなら、それは普通に亡き妻を偲ぶ一人の男性の酔った勢いで口にした世迷い言として受け止められていた筈だ。

だけど最悪と言うべきか、俺は世の中の道徳や倫理から明らかに外れた思いをあろう事か産みの親である母の弟…つまり自分にとっての叔父に当たる人に抱いてしまっていて、この地には一年と言う束の間の根を下ろすだけのつもりがまさか出会った血縁者に対して恋を芽生えさせてしまうだなんて当初は思いも寄らなかった。もしこの思いを知らぬまま堅い蕾のままで置けていれば、こうして叔父の堂島さんが発する言葉の一つ一つにいちいち反応し、喜んだり期待したり、時には向けられた意味深な言葉を勘繰ったりあらぬ考えに人知れず苛まれたり歯痒く思うようになったり…堂島さんや菜々子がそれぞれ語る奥さんと母親の話を耳にする度、激しい嫉妬と羨望を抱いたりはしなかった筈なのだから。
もし、こんな疚しい気持ちを抱くくらいなら、あの時の俺は。

「堂島、さん」

堂島さん。
俺は、あなたが好きです。
例えこれが報われない恋でも。例えどれだけあなたが奥さんと菜々子の二人を愛していると知っていても、この思いを理解した今では止めようもなくて。もしかしたら本当は気付いているんじゃないんですか?俺の気持ちも、あなたが思う奥さんがもう本当にこの世にはいなくて頭じゃ理解してるのにまだ引き摺ってしまっているその訳も。
俺はあなたの奥さんじゃない。写真に写っていたあの色白で華奢な女性とは違う。あんなに綺麗で真っ直ぐな眼差しはしていない。あなたに邪な思いを抱く俺なんて、何処も似てやしない。それなのにあなたは、あなたはどうして俺を亡くした奥さんと似ているだなんて酷いことが言えるの。もしその人が目の前にいたら何をするかも分からない、俺なんかを。

(ほら、俺はこんなにも醜い)

「愛、して。俺を、俺だけを見て、愛してください」

遼太郎さん。
酒の匂いを纏わりつかせて眠るあなたの身体をこの時だけは、滲む視界を誤魔化すように強く強く抱き締めた。
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2008.11.26(Wed)





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