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author 米 [write]

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聞きたかったこと


(伝えたかったこ:と花村サイド)

(背中越しに触れた温もりがまるで溶けるように俺のなかに染み込んでいた。あの時、お前は俺の背中の向こうでどんな顔で、どんな気持ちで、あんなことを言ってたのか)

修理して何とか走れるようになった自転車を不安そうに見てた東雲を半ば無理矢理引っ張って、二人一緒に2ケツして帰った鮫川の土手上。お互いの帰る先を考えればそこを通るのは少し遠回りになってしまうけれど、一応通学路にもなってる訳だしたまには良いだろと笑って見せれば、後ろの東雲は苦笑を小さく零して仕方ないな、とまるでクマや菜々子ちゃんみたいな年下に対するような反応を示して頷いた。それから、背中を合わせて後ろ向きに後部座席に座った東雲の姿を確認して漸くペダルを漕ぐと二人分の重さがあるのに何故だかその時は軽く感じられたのが不思議だった。

東雲の背中は薄い。
俺は自転車を走らせながら伝わる温もりに少しだけ意識をぼんやりさせてそんな事を思っていた。背格好は大して変わらない筈なのに、意外に華奢で線も細かったりする東雲は手首に触れたらそれがよく分かる。元々口数も少ない方だし纏う雰囲気からして何となく落ち着いていられた、けどそんな東雲相手に必然と俺の方が多く喋ることになるのに相手はそれがどんな事も真面目に聞いてくれて反応も返してくれる。俺は、初めてこいつと出会った時に同じ都会から来た人間なら他より話しやすいだろうとか、気を許せるだろうとか、もしかしたらこんな何もない場所にいた俺の気持ちを理解してくれるんじゃないのかって言う考えがあってそれらしい振りをして近付いた。
けど実際話して、触れて、一緒に行動するようになってからはそれも間違いだったと気付かされたんだ。東雲は文字通り裏表のない奴で案外思った事ははっきり言うし、こっちが隠してた事にだって結構容赦なしに踏み込んで来たりして本当にイレギュラーだった。他人にされたら嫌なことも、他人である筈の東雲にだったら許せた、許容出来た。自分でもそれはどうよって気はしてたけど気付いたのはそれだけじゃなくて、俺も完二の事を容易く馬鹿に出来たもんじゃないなって苦笑い。
俺は、東雲に恋をしてた。

「…なぁ、葵。俺さ、やっぱりお前のこと好きだわ。さっきお前が言ってたことも実は聞いたとき結構期待しちまってた。だってほら、曲がりなりに好きな相手から急に『好き』って言われたら誰だってそうだろ?俺意外とピュアだからさぁ…お前にそんなこと言われて、すっげ恥ずいけど脈アリ?!って勝手に妄想しちゃって。…けど、少し考えたら言い方は悪いけどお前は誰にだってああやって優しいし良い奴だから、きっと俺もその仲の良いオトモダチとか仲間とか言う枠ン中の一人にすぎないんだ…って思って、そしたら何つーのかな?嬉しいのに悲しくて、あと少しだけ悔しくてさ、あんな風に答えたけど…」

帰り道の途中まさかお前からあんな風なこと言われるとは思っても見なかった。漕いでた自転車のハンドルを思わず大きく切って、坂を転がりそうになったのを無理矢理踏ん張ってビビったり、バクバク鳴ってる心臓が煩くて変な汗掻いたりホントマジ、ダッセェの。そんな俺を知ってか、東雲はまた少しだけ、本当に少しだけ掠れてしまいそうな笑みを喉を鳴らすことで零し、いつの間にか掴まれてた制服の端っこに絡む指を視界の端に見た時は、どうしてだろう…無性に切なくて。依然寄り掛かる少ない重みと淡い温もりに訳の分からない焦燥感を掻き立てられて誤魔化すみたいに顔を上げると俺はオレンジ色…ってか茜色の少し霧掛かって輪郭の朧気なデカい夕焼けを見て、もっとどうしたら良いか分からなくなってがむしゃらにペダルをもう一度漕ぎ始めた。

本当は、本当はもしかしたら。俺はその時にはもう全部知ってたのかもしれない。けど認めるのが怖くて、認めた時点で寄り掛かる背中から伝わるあらゆる全てを取り上げられてしまうのが嫌で、必死に遠回りをして帰ろうとしていて。…そんなことは無駄なのに、お前のあの言葉をちゃんと受け止めて、期待に胸を膨らませたままこの先の未来を一緒に描けるようにガキ臭いことを延々と二人話せていたら良かった。(それを断ち切ったのは俺、だ)

「葵、葵、…葵っ」

怖かった。
いろんな事が。
兎に角怖くて、心の中では耳を塞いで目を閉じて、静かに背中に凭れ掛かる東雲に必死に明るく話し掛けていたけど。気が付いたら、もう既に辺りは暗くて空気も冷たくて、俺の身体はまだ暖かいのに背中に触れたそこだけは、そこだけは。

「…返事、しろよ…っ葵」

寝てるんだったら起きないと堂島さんも菜々子ちゃんも心配するだろう。風邪ひいて、二人だけじゃなくて里中や天城や完二にりせ、クマだって。お前が入ってる部活の仲間だって心配する。俺は建て前を作って東雲を起こすけれど、もう何の反応も示さない身体の冷たさにいつしか喉がひきつれた。あの優しいぬくもりは、あの心地良いあまい声は、茜色の光に包まれて知らぬ間に溶かされてしまった。
自転車を止めて、振り返るその暗い世界に浮かび上がる灰色の髪。輪郭の細い白い顔。伏せられてもう開くことのないだろう瞼の中の、銀灰色の目。縁取る睫毛まで綺麗な色をしていたことにこんな時だけ気付いてしまって恐る恐る触れて抱き締めた身体に今度こそ涙が込み上げた。そして俺はまた、大事な人を失くしたんだと改めて実感。

「…好きだ。大好きだ。お前が」

ああ俺も、お前が好きだよ。
それをちゃんと伝えられなくて。ちゃんとお前からの言葉を聞けなくて。ご免。でもこれだけは最後に言うから。

おやすみ。
言えなかったけど愛してた。
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2008.11.26(Wed)





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