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author 米 [write]

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伝えたかったこと


(ペルソナ能力の使用過多で死ネタ)

(本当は言えなかった二文字。本当に伝えたかった五文字。けど、もう)

まだバイクの免許は取っていないからと仕方なく久々に顔を出した花村愛用の自転車を2ケツして帰ることになった俺は、前でペダルを漕ぐ花村の学生服を着込んだ背中に貝合わせみたいに背を凭れながら鮫川の土手上からうっすら霧掛かったみたいに綺麗に揺れて見える、茜色の夕焼けをぼんやり眺めていた。

「…なぁ、花村」

「んー?どうしたよ」

「好きだ」

「っうぉお?!…は?ちょ、いきなり、全然脈絡ないんだけど…何が?つかマジどうしたよ」

「お前のこと。好きなんだ」

この前まではギィギィと軋むような音を立てていたペダルと車輪は今はからからと小さな音しか立てないように上手く直されていて、俺が喋った途端花村の背中越しに感じた空気がピクリと微かに震えたのに気付いた。そして一瞬だけ緩んだスピードと逸れ掛けた車輪の道筋を軌道修正して元通り真っ直ぐ進む、その少しだけ冷たい空気に頬を撫でながらそっと、薄く瞼を伏せて。眇めた視界に伴って細くなる夕焼けの光はまるで俺の灰色の目をきらきらと眩く彩る宝石みたいだった。

(お前の色だよ。花村)

世界は、今お前の色一色で俺を優しく包んでくれてる。
花村の背中に改めて頭をこつんと預ければやがて困ったような、苦い笑いが空々しく漏れてそれすら聞き逃さないように必死に聴覚を働かせた。

「…は、ンだよ、そんなんもう知ってるって。お前が、俺も含めてみんな好きだ、って言うのはさ」

「あぁ、そうだな。…うん、なら、良いんだ。ありがとう…花村。いつも」

いつも、ありがとう。
助けてくれて、支えてくれて。
俺をお前にとっての特別にしてくれて、嬉しかった。

(お前も俺にとっての特別だよ)

それは、言えないことだけど。

「…ありがとう」

「…おい、東雲?」

俺はお前に優しいものを沢山もらった。それは俺みたいな人間には身に余るくらいの幸せだった。
今まで一人きりで、誰にも頼らず頼れる事も出来ずに生きて来て、この町に来た時もただ場所が変わっただけでそれまでの生活と何ら変わらないものだと思ってた。けど、堂島さんと菜々子に出会って、家族の絆がどんなものかを知って、お前や他の掛け替えのない仲間に出会えたことが俺にとって何よりもの奇跡になった。そしてお前から寄せられた温かすぎる気持ちに何度涙が込み上げそうになったことか。

(何よりお前に好きだと言われて、特別になったと言われて俺はきっと、今世界で一番の幸せ者に違いない)

ありがとう花村。
俺もお前が好きだよ。

だけどもう、おやすみをしなくちゃいけない。伝えたかったけど伝えてはいけなかったこの言葉(さようなら)は、口に出せばこの先お前をきっと苦しめるだろうから…言わないでおく。だから代わりに違う言葉でも、俺の本心には変わりなかった言葉(好き)くらいは少しくらい残させて。どちらを残してもそれはお前にとって残酷な仕打ちになるかもだけど。
里中や天城や、完二にりせと直斗、それとクマに俺の『家族』にも、他のみんなにだってきっと沢山の悲しい思いをさせるだろうけど。

ご免なさい。
謝りたくても謝れないんだ。

「…なぁ、東雲。やっぱ俺、お前のこと好きだ。お前がさっき言ったのが期待させるみたいでビビったし、どう返したら良いのか分かんねぇけど…けど、それは兎も角またみんなで夏祭りとか、海とか、色々と行こうぜ?だってお前はもうすぐ帰っちまうけど此処だってもうお前にとっちゃ故郷みたいなもんだろ?…俺、待ってるし。つか迎えに行く気満々だし?花嫁奪還!…ってそれは違うか……まぁ、お前がいないなんてのは寂しすぎんだよな、だからお前も菜々子ちゃんや堂島さんに会いに来るついでで良いからまた俺んとこ来いよ、その時はこの町の騒ぎも全部治まってんだから」

「…」

「…な、東雲、もうすぐお前ん家着くぜ?もうちょい遠回りして良いか?」

「…」

「おい、東雲?寝てんのかよ」

段々と花村の声が遠くになっていく。眠くないのに眠い。大事な話も約束もしてるのに、明るく話すこの声もずっと聞いていたいのに、なんでかな…いや、理由は分かってるのに、唇が動かないんだ。せめて握ったままの制服の端は未だ強く、掴んだまま。

花村、閉じ掛けた視界の最後に触れたお前の光はとても、とても。


「…あ、おい?」

やさしかったよ。
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2008.11.26(Wed)





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