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author 米 [write]

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ラブジェネレーション


(完♀主で両片思い)

(たまにふわっとした笑顔で見られると左胸がこう、きゅんてする)

東雲先輩が女だって分かって、今まで悶々と抱え込んで来ていた事が解消されたのは良いけれど、それと引き換えに気付いた事があって俺は更に頭を悩ませる羽目になった。
先輩の表情が少ない白い顔の上にたまにほんの僅かな変化が見えて唇の端が上がって笑みが浮かぶ度、男の声質にしてはなんだか高めだな…と今までは思ってた張りと柔らかさのある妙に説得力がある声を聞く度、登校のとき道で出くわして並んで歩いて話したりすると自然お互い見下ろして見上げて視線が鉢合うと銀灰色の不思議な目が少し眇められて首を傾げる仕草をする度、他にも色々あるけどあの先輩の長身に見えて細い肩や手足に俺達に自分達が今まで男だと思って乗せて来たリーダーと言う重みを振り返るとやりきれない様々な感情が込み上げて来る。
そしてそこから導き出される新たな気持ちは守りたいとか、支えたいとか、頼られたいとか、愛しくて仕方ないとか言うそれで、今まで俺が先輩に救われた分だけ…いや、それ以上のものを返したいと思うようになった。

年もそんなに違わないのに妙に達観していて落ち着いてるかと思えば、たまに母親みたいに俺を叱ったり(けれど実際の親より叱られても反発を覚えたりはしない。何故か)、兄弟みたいに勉強を見てくれたり、なんと言うか、自意識過剰だけど恋人みたいに弁当を持って来てくれたりするのが嬉しい。特にデザートのなめらかプリンが最高に美味かった。
けど、支えたいとか思うくせに俺が出来るのは喧嘩か裁縫のどちらかくらいで、どんな奴が相手でも俺が拳を振るうのを良しとしない先輩にじゃあ何が出来るかと残されたのはただ一つしかなかった。先輩は俺が作ったあみぐるみを見た時に凄いと言ってくれて、ある日菜々子ちゃんと一緒に教えて欲しいと頼んで来た。俺より頭も手先も器用そうな先輩なら、別に頼まなくたって本を買えば簡単に出来そうなのに、聞いた話じゃボタンや小さい破れを繕うくらいしかした事がないらしい。うちの母親よりも美味い飯を作るのにそれが少し意外で、先輩にも出来ない事ってあるんスね、なんて笑ったら苦笑混じりにそれはそうだと返された。

そう言うほんの些細で小さなやり取りがその時の俺には何より掛け替えのないもので、先輩の笑顔を見るのが嬉しくて、先輩が俺を呼ぶ声が大切で、だったら他にも色々教えますと唯一の特技を得意げに話したらもっと笑ってくれた。
先輩はいつも人の輪の中心にいるようでいてそれを客観的に見ている理性的なタイプと言うか、そんな立場でないと逆に場を纏めるのがいなくなってしまう所為か日頃目立って感情を面に出したりはしない雰囲気だったからそうやって年相応に(そう、あの人は俺より一つしか違わない17歳だった)そうやって明るく笑うのは、年を思えば普通であるのに何処か珍しくて、俺は考える度胸を激しく揺さぶられて堪らなくなる。いつもは物静かに微笑する先輩が、あの日俺に見せてくれた華やぐような無邪気な笑顔。周りには気張ってしまう事も俺には少しだけれど和らげてくれてるのかもしれない。

(喧嘩か裁縫かの能しかねぇ俺でも、先輩の役に立ってたら良いんだけどな…)

まぁ、たかが裁縫で我らがリーダーの救いも何もないと言うのがまともな話だが。この通り先輩は喜んでくれているようだし(家に押し掛けてストラップをあげたり、鍋掴み作りを指南した時は驚いてたけれど)、今丁度目の前では昼休みの時間を使って手製のハンカチを縫っている先輩を差し入れにもらった弁当に入ってた甘い味付けの卵焼きを食べつつチラッと盗み見ると、その手元はやはり元々手先が器用らしい事を窺わせるような綺麗で真っ直ぐな縫い目を残していて、更に伏し目がちに落とされた視線に微かに覗く真剣な眼差しがテレビ探索の時とはまた違う一面を晒けていてつい頬が緩み掛ける。
けどその中でふと何かの違和感に気付いて、自分のよりも一回り近く小さくて細くて何より白い手を咄嗟に掴んでしまった。

「あ、」

「え?」

気付いたのは縫い方の事だった。ハンカチのように日常的にも使用する小物の類いは洗ったりすると端の縫い目が特にほつれ易いから二、三回くらいは繰り返し縫って最後玉止めで結ぶ方が実は丈夫になる。けど先輩は最後の仕上げに簡単なこま結びをして糸を切るタイミングだったからそれを止める為に咄嗟に手を取ったけど、今思えば何も触ったりしなくたって良かったと一拍置いてから後悔した。

(な、なななんで手ぇ握ってんだよ俺は…!!)

「…完二?」

「!え、あ…いや、その…先輩、そこはこま結びより玉止めで糸切った方が頑丈になるっすよ」

「あぁ、そうなのか。…けど玉止めって?」

小首を傾げる仕草すら無駄に可愛くて様になる先輩は俺が手を握ったままでも一切気に止めない。俺の心情的には助かるものの、それはまるで意識の外に置かれてるようで複雑でもあった。(つまり俺はただの後輩で、仲間で、男としては見れてないって訳)
俺は曖昧な感情を抱えたまま問われる通りに先輩の手からハンカチと糸の取った針を取り上げると見やすいように気を配りながらお手本を見せることにした。

「えっと…縫い始めの時、最初は糸の端っこを人差し指の爪上辺りに一回巻いたっスよね」

「うん。それで親指で糸を捻って人差し指から糸を外すんだよな」

「そっす。それから中指で糸を押さえて引っ張るとこれが玉結びになって、縫い物の時は大概これで縫い始める…けど終わる時、縫い終わりのとこに針を当てて糸を針に二~三回巻くんです。で、巻いたとこを親指でしっかり押さえて糸の中から針を引き抜く。そうすりゃ結び目が出来てるんで後は糸切りで切ってください」

ぷつり、と小さく音を立てて俺はそのまま玉止めにした糸を先輩持参のソーイングセットに入っていた鋏で切り、先輩に完成したハンカチを返す。すると先輩は出来上がったそれを如何にも凄いものを見るような目で手に取っていろんな角度から子供のようにきょろきょろと見る。

「わっ、凄い。俺今までボタン留めるのもほつれ直すのも全部普通に結んで切るだけだったから…こう言う結び方とかもあるんだな」

表情の変化に乏しい先輩が普段言う台詞には到底思えないような言葉。きらきらとした銀灰色の双眸は此方を向くや否や汚れの一切ない純粋さで俺を映し、その真っ直ぐさにただでさえ惚れてる相手と一緒にいて身体が熱くなるような錯覚を覚えると言うのにどうしようもない気持ちが更にぐるぐると内側を駆け巡る。そう暑くもない日差しと気温なのに、身体はまるで別物だった。そしてつい頬を掻いて視線を彷徨わせながら口篭もる。

「そ…んな、そんな風に褒められっとなんか照れ臭いっすよ。…つーか、こんなん誰でも簡単に出来ますから、先輩なら一日もしないですぐ慣れますよ」

「…そう、かな…。なんだか少し信じられないけど…でも、完二がそう言うならそうなんだろうね」

最後の縫い目をつけて糸を切った先輩はそう言ってほんのり頬を赤く染めるとふんわりと優しくはにかんで手元のお手製ハンカチを見下ろした。そして俺はと言うとその一瞬の笑顔と先輩の発した台詞にどきりと心臓を跳ねさせて驚き、ただただ呆然と綺麗な横顔を見つめていた。

(完二が言うなら)

頭の中で何度もリフレインする先輩のその言葉が、赤らんだ頬が、まるで期待を抱けとばかりに勝手なことを頭の隅から囁いているようで、今までの先輩に対する思考を振り返るととんでもない事だらけなのにやっぱり身体は素直で顔に出てしまった。赤くなった先輩と同じように顔を赤くして、いつのまにかどちらも照れ臭いような気恥ずかしいような、モヤモヤとした説明のつかない空気に包まれる。それでもそれが嫌だと思わないのが不思議で、俺はあーだとかうーだとか呻いて先輩は苦笑を漏らした後に頬を擦って誤魔化した。

「あ、あの、完二」

「っは、はい?なんスか」

「教えてくれてありがとう。これ、凄く大事にする」



(たまにふわっとした笑顔で見られると左胸がこう、きゅんてする)

不意打ちのような温かい笑顔にそう思ったのは、今まさにこのとき。
俺はやっぱりこの人が好きなんだと再確認した。
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2008.11.26(Wed)





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