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author 米 [write]

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I'm alone.


(主人公の過去捏造)

気が付けば一人だった。
両親は二人して共働きで、根っからの仕事人間。俺が都会に住んでいた頃の、物心つく小学生の時にはもう既に三人で過ごす時間はおろか向かい合っての食事すらなくて、家事はいつの間にか雇われていた家政婦がするようになっていた。勿論、三者面談や参観会や運動会なんて言う学校行事には一度だって来た事がなくて俺はそれをなんて冷めた家庭なんだろうと幼くして思っていた。だがかと言って、両親が俺を愛していなかったのかどうか問われたら返答に困るのは家族全員揃わなくても深夜の留守電や朝起きてすぐ目に入ったメモに残された二人それぞれの言葉があったから。

『今日も遅くなる。だがちゃんとご飯を食べて勉強をして、しっかりと休むように』

『ご免なさい。また急な仕事が入って出張に行かなくてはならなくなったの。先生との話し合いは此方から連絡をつけておくわね』

けど、でも本当は、両親の顔なんてのは俺の中で疾うにおぼろげな輪郭しかなかった気もする。身の回りの世話をする家政婦を中学の半ばになる頃には勝手に辞めさせて自分の事は自分で出来るようにと元からの手先の器用さもあって掃除洗濯炊事は勿論、月当たりの水道や電気代の支払い、自分の口座の遣り繰りに至るまでなんだってこなした。確かに初めこそ分からない事もあったけど、どうにかする術は過程で見つけられたしそもそも家事は案外楽しくて勉強の両立とが一番面倒だったのを頑張っていつだって自立出来るつもりでいた。(そんな訳ないのに)

ある日、高校に進学して二年目に入る頃。両親が珍しく揃ってるところを見掛けて首を傾げた。何をしてるの、家政婦を勝手に解雇させた事にすら反応を示さずにいた二人は少しだけ振り向いて平然と言い放つ。

『一年くらい、海外に行かなきゃいけないの。だから葵も準備をしなさい』

何の?そんな事を今更聞ける筈がなくて、ただ俺は見知らぬ言葉も通じない世界で今度こそ一人になるのかと小さな絶望に浸った。俺は、俺を振り向かない両親に気付かぬ内に唇を噛み締めて言う。

『行かない』



本当は、もしかしたら始めて口に出した我儘だったかもしれない。聞き分けのない事を言って二人を困らせて、俺を見て、構って、居間まで放り投げて来た全てを気付いて欲しかった。俺は愛されてたかもしれない、けどどんな時どんな風に愛されてたか分からなかった。いつだって良い子の振りをして何も言わずにいた子供らしくない子供の俺を二人はどう思うのか。(嘗て、もしかしたらあったかもしれない、幸せな家族の形なんてものを思い出してくれる?)

けれど、現実はいつだって俺の細やかな願いすら容易く振り払ってしまう。

『…しょうがない子ね。そんな我儘言って、子供が一人だけで暮らしたら何が起こるか分からないじゃない』

『母さ、』

『だったらあなただけ、親戚の叔父さんの家に行きなさい。話はしておくから』

掴み掛けた腕を払われ、こうして俺は、桜が咲く新学期の霧の町・稲羽市に来る事になった。新幹線と電車に揺られ人混みが次第に少なくなるホームの上に立つ間、その時の俺には本当の家族よりも余程温かくて心地の良い、幸せを感じるだなんてまだ知らずに。
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2008.11.26(Wed)





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