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author 米 [write]

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いとしい人よ


俺の腕の中でお前は他の男の夢を見る。
同じ姿、同じ声、同じ心を互いに共有し合う言わば半身である俺を余所にして。
接待とは名ばかりの無茶な契約に巻き込まれあれだけ傷付いておきながらどうしてあんな男を視線に追うのか俺には理解出来ない。否、したくもない。

俺を愛せば良い。〈自分〉を何より大事に思えば良い。
釣り合わない天秤は片方に傾いて最後は重さに耐え切れず崩れてしまうのだから、俺だけを見ていれば感じていれば愛しいと口に出して腕を伸ばしさえすれば。俺は、お前だけをこの世界の何より誰より最も愛せるし守る事が出来ると言うのに。
〈自分〉を愛する事がそんなにも罪と思うのか、否そうじゃないだろうお前は既に俺を受け入れているし確かに真正面から対峙している。だが、それでも追うのは思うのはあのサディスティックな笑みを浮かべる冷めた目と容貌をした男―御堂だけ。
口にするのは俺の最後のプライドが許しはしないが本当はそれが一番に口惜しくて堪らない。お前を今、抱いているのは俺なのに。荒々しく抱くセックスの中にすらお前はアイツを探すのか。

「…っひぁ‥あ、やぁ!」

暗く濁った意識に耽っていると戦慄いたように声を震わせガクガクと繋がり合う腰から痙攣したように身を震わす〈オレ〉の嬌声が鼓膜に響いた。気が付けば荒く深く、まるで抉るかのように強く穿った最奥から溢れる快感と僅かな痛みに白い肌を紅潮させ汗をしっとり滲ませた〈オレ〉が壮絶な色香を撒き散らして薄い胸板を小刻みに上下させている。

「…はぁ、ん…ぅ、はっ…ぁ」

「克哉」

「ん…な、に…〈俺〉…」

どうやら幾度も繰り返し絶頂に達した所為か色も薄くサラサラした水のような精しか吐き出せなくなったらしい〈オレ〉はくたりと力なく前に倒れ浅く息を整えながら、青み掛かった俺と同じ瞳を涙目と言えるくらいとろつかせ見上げて来た。かち合う眼差し、嗚呼、目眩がする。
俺を見上げるブルーダイヤに似た瞳は水分を含み薄暗い部屋の中でさえ蠱惑的に輝いている。これは男を誘う魔性の目だ。小さな吐息を漏らし引き摺り込まれそうになる意識を払うとただジッと見上げて来る大人しげな〈オレ〉の汗ばむ頬を撫で滑らかな曲線を美しく描いた鼻頭の頂に口付け、俺自身こんなにも繊細な仕草が出来たのかと思うほど羽が触れるような動作を繰り返す。
鼻、頬、耳朶に目尻。額にまでキスを落とせば最後には恭しく唇へと。驚きに目を見張り身体を強張らせる気配がしたが今はそれすら構わなかった。俺は、お前をこんなにも愛しく慈しみたいと願っている。御堂より、あんな取るに足らない男より、お前をただ傷付けるだけで自らが抱える本心に目を背け気付きもしない馬鹿な男より。どうして振り向かない。

「〈俺〉…?どうしたんだよ…」

「かつや、だ」

「え?」

「良いから〈克哉〉と呼べ。抱き合っている最中にまで〈俺〉だの何だの情緒の欠片もない」

「な、何だよそれ…情緒がどうのってお前が言うか?そう言うの…大体同じ名前なのに」

「別に良いだろう。たまには」

本当はただ呼ばれたかった。
御堂さんと甘い声で無意識に呼ぶその唇で俺の事も。今でこそ俺と共にいる時はその名を出す事はないようだが繋がる意識の根底ではお前はいつでも求めている。絶対的な快楽と愛を注ぐ俺よりもアイツを。そんな俺の心情を知る由もない〈オレ〉は無茶苦茶だと呆れた声を漏らしだが結局は漸く整った息を吐き出して困ったような、言う事を聞かない子に対する親のような柔らかい苦笑を漏らして全く…と呟きながら俺の髪をキスのお返しとばかりにそっと梳いた。

「しょうがないな…良いよ、分かったから。…〈克哉〉」

ふと、今まで厚い雲に覆われていた窓の外の月が顔を覗かせその光を以て部屋を淡く照らした。その時に垣間見えた〈オレ〉の、克哉の顔を俺はきっと永遠に忘れはしない。
いっそ溶けるように慈愛に満ちた、穏やかで艶やかな笑み。欠けた月のように薄く細められた瞼に瞳は光を射して益々輝いていた。ふっくらとした色の薄い唇は弧を描いて俺を撫でる指先は酷く暖かで優しく、こんな時、同じ容姿をしていながら自分には到底出来ないような表情を浮かべる〈オレ〉が胸をいっぱいに埋め尽くす。

「克哉」

「〈克哉〉」

どちらともなく重なるようにして呼び合う名前がこんなにも大事と思えるだなんて知らなかった。
今だけは〈オレ〉も俺だけを見ている。俺だけを思っている。アイツよりも。…そう思うだけで沸き上がるこの優越感、この充足感、俺があの男から克哉を奪い独占した幸福感。
掻き抱くように背に回した腕をそのままに再び押し倒せば流れる雲の影響で今一度陰りを帯びたその顔に、唇に自らのを重ねた。今度はまた荒々しく、時に啄んで。耳朶を甘噛みして囁く言葉は呪詛よりも重いに違いないだろう。

「お前は、俺のものだ」

幾らお前がアレを思ってもアレがお前を失くした後の思いに気付いても最早返す気はない。
永遠に、永遠に。

「愛してる、克哉」

(例えそれが禁断であろうとも)
(俺がアイツを殺しても)



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2008.07.03(Thu)





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