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author 米 [write]

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知解に果てしなく 五(完結)


(プランツドールパロ:主人*御堂孝典/ドール*佐伯克哉)
(オリキャラ注意)

『目覚めたドールは目覚めさせた主人に引き取って頂かねば後は枯れ朽ちるのみです。御堂孝典さん、あの方を引き取っていただけますか?』

『だが…ドールと言うものは非常に高値だと聞く。私もそれなりに稼ぎはあるが…その、彼は他とは違って特別なのだろう。持ち主であるそちらは良いのか?』

『あぁ、そう言う事でしたらお気になさらず。生憎私には生まれもって金銭と言う概念がないのです。…確かにあの方は普通のドールとは違いその価値もまた別格ですが、目覚めさせた主人でないものには寄り付かないのは他と同じです。私はあくまでドールが主人に出会い、眠りから覚めるまでの言わば預かり人と言ったところですからね…あの方を目覚めさせたあなたが既に決定権を握っているのですよ』

『ではもし、私が彼を不要だとするならどうなる』

『それはそれは…もしそうであるならば残念ではありますが、メンテナンスに出して記憶を抹消した後にまた眠りに就くことになりますね。あなた以外の他の誰かが主人となるかどうか…それは全くの未知数ですが』

『………』

折角目覚めたと言うのにこのまま枯らすと言うのは、25年物のヴィンテージを無駄にするのと同じ。
ならば再び眠りに就かせいつ現れるか分からない次の主人を待つだけ。

そんなMr.Rの言葉は、御堂の固まりつつあった意識を今度こそ強固なものとした。




克哉と名の付いたドールが目を覚ましてどれくらいの時が経ったろう。
Mr.Rは、目覚めたばかりの所為かまだ何処かぼんやりとした表情の克哉を隣に置き、そっと静かに―本当に少しの違いしかない為かなり分かりにくいが―笑う御堂を自身が掛けた眼鏡のブリッジを軽く押さえながら笑みを湛えて見つめていた。

「では御堂孝典さん、あの方を宜しくお願いしますね」

「あぁ、重々承知している。彼は…克哉は、私が責任持って面倒見よう」

「ありがとうございます」

帽子を取り恭しく腰を折って頭を垂れたMr.Rをまるでどう扱えば良いか分からないように御堂は視線を僅かに彷徨わせた結果小さく咳払いをして答えた。しかしそれすら相手にとっては予想の範疇内なのか笑みは歪むことなく、御堂の隣にぴったりと寄り添うように擦り寄る克哉をちらりと一瞥する。眼鏡のレンズ越しに見た克哉の姿は最早目覚めてからずっと御堂ただ一人しか見ておらず、喉を鳴らして笑うと今更気が付いたようにMr.Rに目を向けてことり、と首を傾ける。それにほんの僅かに口角を吊り上げると店の中からある程度見繕った、これから御堂が克哉と共に生きる為に最小限必要だろう物をアンティークな雰囲気のあるトランクに詰めて渡す。

「これは」

「先に説明していた、ドールが生きて行く為にある程度必要なものですよ。別に他の物でも構いませんが…身が落ち着くまでの間はこれをお使い下さい。もし中の商品が切れましたらなるべく栄養価の高い類似した物を与えてくだされば結構です、が、基本的にその中に入ってあるものとは明らかに異なる物は与えないで下さい。もし必要であれば少々値が張りますが宅配も承っておりますので」

小さく見えるが案外重みのあるそれの中にはドールが生きていく上で必要なものが入っている。それはドールの主食である特別なミルクと週に一度の肥料とも言える砂糖菓子が入った小瓶、そして土壌となる服を数着で、服などの身に着けるものであれば後に自由に買い与えて着せてやっても良いとのことだ。
それらの事は克哉が目覚めてから予め聞かされていただけに取っ手を落とさぬよう気を付けて持ちながら御堂はMr.Rを見据える。その目には既に、当初の警戒するような目つきは見られない。それどころか本来高額である筈の克哉を無償で自分に譲り、更には普通の値よりも大分引いただろう必需品を格安で提供してくれている相手はドールに関しては右も左も分からない、正に手探り状態である自分にあっさりすぎるほど関わって来るのだ。こう言っては何だが、利用させてもらう他あるまい。

「…色々と申し訳ないな」

「いえいえ。これが私の役目ですから。…あぁそれと、これは私からのささやかな贈り物です」

「?何だこれは…飴玉…か?」

御堂がそんな思考を巡らせているのを他所に、Mr.Rは思い出したように軽く手を叩き着込んだままでいるコートのポケットに皮の手袋を嵌めた手のまま差し入れて何かを探るような仕草をすると取り出した。
それはどうやら瓶のようで、ころころと丸い飴玉のようなものが幾つか入っている。先に渡された砂糖菓子とはまた違うのかと首を傾げた御堂の心中を察したのか愉快げに笑うMr.Rはそのまま御堂の手にそれを握らせ言った。

「それは香り玉です。僭越ながら私の見立てでは、あなたはワインを好まれるようですね…でしたらこれはきっとお役に立てるかと思います。毎食ミルクを与える時、一緒に食べさせてください」

素敵なことが起こりますから。
うっそりと微笑むMr.Rの台詞にひくりと頬が引き攣り掛ける…が、そんな事は一切おくびにも出さず一体何故自分がワインを好んでいることを知っているか疑問を抱きつつ、ふと思えば矢崎との昼間のやり取りなどを知っているならば彼がそう言った事を知っていてもなんら可笑しくはない気がした。(平静に考えてプライバシーの問題はまた別に置くとして)
明確な答えは得られなかったものの、御堂は結局その飴玉の入った瓶を受け取り不意にくいっとスーツの袖を引かれる感覚を覚え隣を見遣れば克哉の青い瞳がじっと自分を見ていた。きっと、長いこと(実際そうでもないのだが克哉にしてみれば)放って置かれて寂しかったり飽きたりしたのだろう。白い素肌に掛かる横髪を何気なしに苦笑を浮かべて払ってやると克哉は途端にふわりとした微笑を浮かべ、そっと御堂の腕に額を寄せて甘く擦り寄った。まるで御堂が自分に触れてくれたことが心底嬉しいかのように。…そんな人見知りする小動物のような愛らしい仕草に御堂もまた、少し指で触れただけの事でこんなにも純粋な反応を示す克哉が愛しくて堪らず瞳を眇めた。

こんな時、昼間矢崎が言っていた言葉がまさか本当になるだなんてと思う。あれだけドールを小馬鹿にしたように差別していたにも拘らず実際目にした克哉と言う名のドールのなんと愛らしく美しいことか。もし、もしもっと早くに出会えていたら。克哉のことを迎えに来れていたら。永い眠りから解き放って自分だけをもっと早くに見つめてくれていただろうか。
たった一瞬の邂逅が自分をこんなにも簡単に変えてしまうだなんて思わなかった。知る由もなかった。だから時を超える力があればきっと自分は過去に飛んで今すぐ克哉を迎えに行くよう説き伏せていただろう。だが、そう思うのと同時にきっとこの出会いは今でなければ無理だったのだ。Mr.Rが言ったように、あの時矢崎との会話で自分がドールに少なからずの興味を予め持っていなければ出会うどころかこの『道』とやらも現れなかったろう。そうであるなら矢崎には感謝しなければならない。

(アイツにしては良くやった方だな)

が、それでもやはり上から物を考えてしまうのは御堂の性格だ。
小さく笑みを浮かべた御堂を不思議そうに首を傾げて見つめる克哉の瞳になんでもない、と短く答えると改めて目の前に立つ男に向き直る。彼はひどく満足げな表情を浮かべ何も言わずただ頷いていた。

「では、これで失礼する」

「えぇ、また何かお入用の時があればいつでもいらして下さい。『求めよ、さらば与えられん』ですから」

「…その次は確か『尋ねよ、さらば見出さん。門を叩け、さらば開かれん』だったか?にしてもマタイによる福音書か…意外だな、神など毛頭信じていなさそうに見えるが」

「確かに神など信じておりませんが引用くらいは致しますよ。他にはシャルル・ボードレールなども愛読しておりますが、彼曰く『神が存在しないとしても、やはり宗教は神聖であり、神性を備えているであろう』ともありますからね」

「ふん、そう言う訳か。…行くぞ克哉、そろそろ寒いだろう」

「はい。お気をつけてお帰り下さい」

Mr.Rの含みある物言いに御堂は眉を寄せて低く笑った。だが今はやはり、不快ではない。
得体の知れない事には変わりないが別段危害を加えるでもないこの男に今後会うかどうか分からないが、克哉の細い手を掴み指を絡めると御堂はとうとう背を向けた。気が付けば辺りは街灯の明かりで道沿いに辿ってその先を示している。そして停車させたままでいた車を開けて助手席の荷物を後部座席に置き直すとそこに克哉を滑り込ませシートベルトを留めさせた。御堂もまた運転席に座りドアを閉めベルトを留めると不意にミラーから窺った背後の景色は既に先程とは異なっていて首を捻って振り返るとやはりそこには、何もない。
先程すぐそこの片隅で自分達を見送るように立っていた男の姿も、実り掛けの若い果実を付けた果樹が入り口の傍に置かれた洋風の店も。澄み渡るような清い空気を漂わせた濃い紺碧の空に瞬く星の煌めきにしてもそれはいつもと変わらぬネオンの光と混ざっていた。

――『道』は、閉ざされたのだ。

御堂は克哉の少しだけ眠たげに見える横顔に口角を上げその髪をまた撫でた。

「…帰ろうか、克哉。私達の家に」

プランツである克哉が自分の言葉にそう容易く言葉を返してくれるとは思わない。
だが男は言っていた。克哉はほかのドールとは違い特殊なのだと。だとすれば、もしかしたらいつか自分の言葉にも答え名を呼んでくれるかもしれない。それは教育次第だと言われた。
今はまだ、淡く花咲くように微笑んでくれたら良いのだ。それだけで今は十分だから。自分はこれからたっぷりとした時間の中で克哉と生きて行くのだから急ぐ必要はない。自分を変えたドールに愛情を込め、愛情を返されたその時が来るならば。

「…それで良いさ」

克哉と御堂を乗せた車は紺碧の夜空がベールを落とす街に消えて行った。



今までお付き合いくださりありがとうございました。今後は一緒に暮らし始めた二人をもそもそ書き連ねていきたいです。…にしても後半の御堂さんのデレ具合が凄まじい罠^^しかもRさんがなんだか良い人っぽくなってしまいましたが今後は『あの人』も出てきます…多分。←


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2008.07.06(Sun)





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