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author 米 [write]

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幽体離脱で会いに行く


(克*克が双子でノマが幽霊という話)

すぅ、と半透明に透けて見えた目の前の身体に本能的な焦燥を抱き、理性が働くより先に突き動かされるまま伸ばして触れようとしたその手は、結局そのまま兄である克哉の胴を薄く突き抜けてしまい俺の打ち消して欲しい思いとは裏腹に茜色の眩い光に満ちた空を掴んだ。
俺は、兄の身体を擦り抜けた自らの腕を驚きに目を見張り、つい何かを掴む形で固められたままの手のひらをほんの少し力を込めて軽く握った。傍目から見れば普通に人間が立っているように見えるのに、俺の腕は透けた身体を通してその動作が見えてしまいそれが尚更この状況が幻やトリックではないのだと自覚する羽目になる。夢ならどれだけ良かったろう。それは後悔したとしてそれは完全に遅かった。
握った手のひらから視線を外した次の瞬間ばちりと兄の目とかち合い、その俺と同じ青色に光り輝く瞳が微かに揺らいだのを見てしまったから。

(俺は、今きっとお前をどうしようもなく深く傷付けたんだろう)

「これで分かったろう?オレはもう、本当は何年も昔に父さんや母さんやお前より先に早く死んでるんだ」

ご免。
それが、一体何に対しての謝罪なのか明確には分からなかった。

自分が既にこの世から他界していた事か。
海外から漸く帰国した俺の前にそ知らぬ振りで化けて現れた事か。
両親が知らせようとした訃報を適当に誤魔化して他人の記憶まで上手く改竄していた事か。
それとも、その全部だろうか。

ずっと俺に向かい合う間も秘密を抱えて、ずっと兄が生きたままと信じ続けている俺を傍で笑いながら見ていた事を、もしかして申し訳なく思っているのか。もしそうであるならどうして俺に真実を知らせようとしなかった。例えお前が既にこの世にいなくても死して尚俺の目の前に現れたならそれで十分だったのに。それとも何か、そんな手の込んだ細工をするほどの未練でもあったと言うのか。(俺に、なにか。伝えたい事でも)
けれど俺は、俺の中に洪水のように溢れる疑念をぐるぐると渦のように巻いてしまって実際口に出す事が出来なかった。ただ突き抜けたままの腕をそのままに倒れ込むようにふわりと寄り添って来た兄の体温は、それを除けばまるでただの人のようで。人であるのに、違いはなくて。凭れ掛かる重さも確かに感じる筈なのに今こうして思うと随分軽い気がした。まるで空気のように。体重がない。
それが更に俺の感情を綯い交ぜにさせ抱き締めようとした腕を持ち上げれば肩越しに見えた煌めく光に霞んで目を眇める。するときらきらと輝いた茜の残滓が兄の、克哉の髪を肩を輪郭を砂のように溶かすように錯覚して心臓が震える。

(消える)
(消えるな)
(消えるんじゃない)
(また俺を、置いていくのか)

喉に痞えた声は<克哉>の舌を麻痺させたように空しく、吐息を戦慄かせた。
それを見て克哉は笑った。唯一半身である大事な大事な、自分の双子の弟の今まで見た事もない様子。
同じ容姿をしているのに昔から地味で鈍臭くて、人付き合いも苦手な上に成績だって人並み以上に頑張らなければならなかった自分とは違い、態度は不遜だけれどそれに見合うほどなんでも器用にこなして成績も運動能力も良くて、いつだって人に囲まれていた出来の良い弟。それを羨んだり妬ましく思った事はないとは言い切れないけれど、それ以上に自分にはないものを持って輝くその姿が酷く誇らしかった。<克哉>が何か賞を貰ったり賞賛されるとそれをまるで自分の事のように喜べたのはきっと自分達が双子だから。いっそ清々しいほどの弟の在り様にいつしか妬みすら欠片もなくなっていたのだ。だから、会いたかったのかもしれない。

「<克哉>、好きだよ」

唇に触れた唇。
まるで心地よい微温湯のように仄かなぬくもりを持つその感触は決して死人なんかじゃない。
このぬくもりは、感触は、自分からは触れられないけれど確かに生きた人のそれと同じだ。変わったところなんて何一つない。昔から慣れ親しんだ溢れ出る愛しさの嵐に胸が掻き乱される。
瞬きも忘れて花の蕾がゆっくり綻ぶように静かに笑う克哉を見つめる。それは今まで見てきた記憶の中でも一番に幸せそうで、同時に悲しみや寂しさも同等に湛えていた。

「ご免な…だけど、消える最期に会えて良かった」

死ぬ前からずっとお前が好きだったから。

「ッ、克…!待て!!」

「さよなら。」

ぱらぱらと小雨が降るようにそう小さく漏らした克哉に脳が激しく揺さぶられた。
そして今度こそ力強くその身体を抱き締めようと伸ばした腕が触れる寸前、一層強みを増した夕日の輝きが俺の視界を痛いくらいに射して克哉の表情が逆光し暗くなった。克哉、そう喉が焼けつくくらい叫びたいのに声が出ているのかすら分からない。それは一秒のように短く感じたし、何分も、何時間も、いっそ何年もの時間が経ったように長くも感じられた。
光が収まった頃には既に克哉は砂より小さい光の粒子に溶けてしまって跡形も残ってはいなかった。そして俺の中に残ったものとすれば、真っ赤に染まっていっそ鮮やかな茜色の空とあの時の眩い残光、瞼を伏せても今尚輝くそれは唇の温もりを指になぞる俺を言い知れぬ感情に苛んだ。

「…あの馬鹿が。俺はまだ…お前に何も答えていなかっただろう」

俺も好きだった。お前が好きだった。
双子の兄弟である関係なんて関係なくお前が好きで、好きで、寧ろ好きと言う子供じみた単純な言葉じゃ言い表せないくらい、本当はどうしようもなく愛していた。溺れていた。それを勝手に言い逃げして、もう手も声も届かない遠い場所に行くなんて卑怯だと思う。お前はいつだってそうだ。逃げてばかり。

「それとも俺の答えなんてどうでも良いのか」

克哉。克哉。克哉。(後悔しても今更無駄なのに)
ちゃんと、抱き締めたかった。キスをしてやりたかった。不恰好でも、笑ってやりたかった。

「兄、さん…」

俺も、アンタを愛してたよ。


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2008.07.05(Sat)





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