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author 米 [write]

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知解に果てしなく 四


(プランツドールパロ:主人*御堂孝典/ドール*佐伯克哉)
(オリキャラ注意)


「目的は何だ」

きっぱりと簡潔に要点を口にした御堂に男はくすりと喉を鳴らした。
それは真新しい玩具の出来を窺うようなニヤついたものに酷似し不快感を煽ったがそれを知ってか知らずか大袈裟なリアクションで手を振るうと。

「まぁまぁ、そんなに急かさずとも良いではありませんか。兎も角このような場で立ち話もなんですから奥へどうぞ」

「…貴様」

「あぁ、そうでした。申し遅れましたが私はこの店のオーナーです。名は…そうですね、Mr.Rなどと呼ばれております」

さぁどうぞ。
御堂の警戒するような声や様子も意に介さず本人はさっさと部屋の奥に入って行く。磨かれた石床をこつこつと靴に鳴らし消えて行く背に御堂も最早何か言う気になれず、ただ、いつの間にか重く甘い匂いの立ち込める空気に肩が落ちてしまった。気が付けば初対面にも拘らず随分と上手く流されているような…そんな風に思わずにいられないが渋々、そのMr.Rだとか言う男に着いて行く。
自分がこの場所に来るべくして来たのだと言う意味深な言葉も気に掛かっていた。 本来ならば既に帰宅しアルコールを堪能していた筈なのに…ペースが崩れていく今に奥歯を無意識に噛んだ。

Mr.Rに通された部屋は相変わらず赤いベルベットのカーテンを重たげに垂らした部屋だった。
革張りのアームチェアが向かい合うように二つあり、更にその傍には差し込む月明かりに照らされる形で置かれた天蓋付きの大きなベッドが鎮座している。垂れ下がる薄いレース地の布が重なり合うように視界を遮っているがもしや誰か寝ているのだろうか?であれば到底話し合いの席には向かない状況だが、それでも気にした風もなくMr.Rはチェアに御堂を勧めて何処から取り出したのかティーカップを乗せたソーサーをテーブルに置き自らもその前に腰掛けた。
長い足を組んだ膝の上に手を組み、御堂の顰められた顔を遠慮するでもなくしげしげと見つめる視線は正直心地良いものではない。だが不意にくすりと笑みを声で漏らすと口を開いた。

「さて…何からお話しましょうか」

「何も話す事はない。私は単に道に迷っただけだ。此処は一体何処だ?」

「ですから言ったでしょう。此処は『店』ですよ、ドールの」

「ドール、だと…?」

ドール。それは今日何度も聞いた言葉だ。ふと矢崎とのやり取りが思い浮かび秀麗な眉がより一層皺を深めたがMr.Rは「ご存知なのでしょう」と返す。

「昼間…あなたが嘗てのご学友であったビジネスパートナーの方と話された事ですよ。その時プランツドールについて話を触れたでしょう?あなたはあまり興味がないようでしたが、私の店は『一般的』なドールを売る店とは少々中身が異なりますのでそう簡単に人の目に触れる事ではないのです。…ですが今回、あなたがその話を聞かれて少なからず興味を抱いた事によって『道』が開けたようですね」

「…何の事を言っているのか理解しがたいが。貴様は矢崎の知り合いか?あいつから何か言われたのか」

だからこんな訳の分からない真似を…そう続けるかしようとした時、だがこんな得体の知れない相手を矢崎が知っているとは思えず微かに顔を俯けた。おちゃらけてはいるが矢崎と言う男は人の観察眼に長けた人物だ、ああ見えて上手い生き方をしているし第一共通の知人が多い自分にこんな男の話を一度足りともしていないと言うのは可笑しい。
スーツの袖から伸びる手のひらを軽く拳を作り握ると、それを目敏く見据えたMr.Rは、

「良いのですよ。人間と言う者は唐突な出来事には受け入れ難いものがある生き物ですから。口先ではなんとでも言えますが事実、あなたも気になっているのでしょう?私には分かるのですよ、あなたが何を求めているかを」

「だからこの店に来れたとでも?」

御堂がそう告げると的を得たのかMr.Rは酷く満足げな笑みを浮かべた。そしてご明察とばかりの小さい拍手を鳴らすと腰掛けたチェアから立ち、例の天蓋が下がるベッドに近寄りレースを引く。そしてご覧下さい、と御堂を振り返ると再び視線をベッドに落とした。
その指示に従うのは癪だったが此処でまた何か言っても変わる事など何もないだろう。出された紅茶のカップにも一切手を付けぬまま御堂も立ち上がりそちらに近寄る。
差し込む月明かりは青白く光り、大きなベッドに敷かれたまっさらなシーツはそれによって光沢が掛かり何処か艶めいている。そして柔らかそうなクッションを幾つも敷き詰めた中央で慎ましくも静かに眠っていたのは、御堂の紫暗に近い色をした切れ長の瞳を一瞬にして奪う見目をした、まるで幼さの残る少女めいた美しい容姿を持つ一人の『青年』の姿。つい息すら忘れ目を見張る御堂の横顔にMr.Rは瞳をレンズ越しに細め、囁くように告げた。

「これがあなたの運命の出会いと言うものですよ」

あなたと出会う為だけにこの25年間待ち続け眠ったままでいた世界に唯一、たった一体だけの男性型ドール。名前は『克哉』。
この光に透かされた甘い蜂蜜色の髪も白い柔肌も細い身体もこれから開かれる瞳の輝きや紡がれる声も何もかも、あなただけのもの。どうか愛情を注いであげてください。キスをして、抱き締めて、いつか花が綻び開くまで。

「…克哉…」

今まで煮え切らぬ焦燥と嘲りに満ちていた御堂の雰囲気が和らいだ。そして伸ばされた指先がそっと眠れるドールに触れ、無意識に心が記憶する名前を紡ぎ、触れた頬はまさに人形のように冷たかったけれど。それでも。それでも。そうせずにはいられない使命感にも似た衝動。

(あぁ、これは確かに私にとっての運命なのかもしれない)

一目見ただけでチリチリと胸を焦がすような思いが心に芽生える。だがそれは不快ではない。寧ろ溢れ出る歓喜の余り思うように頭と身体が繋がって働かないだけ。
傍に得体の知れない男がいると言うのに御堂は身を乗り出しベッドに横たわるドールの手を取りながら口付けた。そして気の所為か、冷たい唇に仄かながら温もりが通った気がして唇を離せば、そこには。

「……あ…、」

まるで、空と海を掛け合わせたような透き通る青。純度が限り無く高く、光に照らせばブルーダイヤを嵌め込んだようにきらきらと輝いた瞳。
とくりと鳴った心臓を聞いたかのように傍らでMr.Rが笑った。


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2008.07.04(Fri)





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