the latest //  案内・作品一覧


author 米 [write]

スポンサーサイト


上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--.--.--(--)



胸中にて泣き言


ヒス←♀シン←クリ(旅立ち~ヘンゼラ。シング第一クリードの鬱憤)

その時の私は随分と前に泣き疲れ、泥のように眠りへと落ちたシングの顔をスピリアの中から見ていた。

普段は血色の良い柔らかそうな頬は今は見る影もなく青白く色褪せ、幾筋もの涙が痕に残っている。それを意識すればいつどんな時でも明るいシングがこうまでして泣く原因を作り上げた男の存在をまるで目の前に具現化し見せつけられたかのように不愉快極まりない思いだったが今この時ばかりは少しだけ、本当に少しだけ、その男をどう極刑に処すかよりどうしたらシングを泣かせずに済むだろうかと思案せずにはいられなかった。
不本意ながらこの私の器であるくせをして寝顔どころか平素まで幼いシングの顔をこの16年間見ていると、最初はただの下賤かつ下劣な原界人の赤子だと思っていた存在が不思議なことに愛しくなっていた。私を嘗て忌まわしい封印に納めようとした女の娘に、皮肉にもスピリアを奪われたのだ。

幸か不幸かシングはまだ私の存在に気付いてはいない。唯一の肉親であったゼクスもそれを内密にしたままインカローズの手により死んだ。それは私の下僕たる機械人がその原因であるのだが、今思えばシングはその時に初めて泣いたのだ。
はらはらと落ちる涙に何度掬ってやりたいと思ったことか、そもそもの原因が願ったとてそれは叶わぬ思いだろう、願うことすら烏滸がましいのだ。それに私の存在を知ったときのシングが我が身を疎んじ再度泣き、己を憎むかも知れぬ事実が何よりも――恐ろしかった。

結晶界に於いて最強とも名高かったこの私がこの程度の思いに恐怖するなど愚の骨頂だと自覚しつつも仕方がなかった。
フローラに抱いたのとは似て非なる感情。私はシングの陽のように暖かく無垢な笑みに何より心奪われスピリアの中で大切に思ってきた。



はた、と逸れた意識に呼び戻すきっかけをくれたのは小さく呻いたシングの声だった。シングは痕の残る頬を無意識に隠すようシーツに顔を埋め背を丸めていた。
エメラルドの髪の女――リチアを宿した少女のスピリアを砕いた重責すらこの小さく細い肩には重かろうに、それを懸命に償おうとする意志の強さは稀に見るものだ。
少女の兄にどれだけ詰られ突き放され荒い扱いを受けようと、性別すらも偽り昼間は明るく笑って見せ前進しようとする姿。容赦なくぶつけられる非常な皮肉にも瞬く間の切ない表情をするだけですぐに隠してしまう横顔は、私が実体を取り戻せたならば真っ先に包み込んでやれるものを。

(何よりシング、お前はあのヒスイと言う男を…――)

途中吐き出した声を寸でに止める。
それは私自身認めがたい事実だ。

重過ぎる責任を肩に乗せ、前に進むしかない力無き原界人の少女。その身一つでは出せる力にも限界があろうに、か弱い腕でソーマを振るい同じ性を持つ少女のスピリアを元に戻すべくその兄を含めて守ろうと必死になる様は逆に痛々しい。
いつかきっと自身のスピリアの方が擦り切れ壊れてしまうのではないかと私は予想せずにいられない。ただでさえ気丈に見えて健気な面があり、密かに心寄せる男から向けられる冷めた言葉に秘めて泣いてしまうような少女だ。夜の帳が落ちるに紛れ、きっとこれからも幾度とて泣くに違いない。それをあの男は知る由もなくただ妹を案ずるばかり。

スピリアの内側で実体のない手は流れ落ちる涙一滴拭い去ることが出来ぬ。私ならば、私だけは、お前の悲しみも切なさも懺悔も全て抱いて溶かしてやれるだろうに。あの男には出来ない抱擁も口付けも何もかも。お前に与えてやれるだろうに。



(お前は他が為に泣くが誰がお前の為に泣くのだろうか)
(嗚呼やはりこの世など、低俗無価値な原界人など、滅びてしまえば良い)
スポンサーサイト

2009.02.28(Sat)





/
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。