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author 米 [write]

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用済みの手


ヒスシン(第二部序盤ヘンゼラ~レーブ)

(オレ、用済みなんだって)

泣きそうな顔を誤魔化して笑うそいつの表情が見てられなくてオレは目を背けた。けど他に誰もいない宿屋の一室で二人きり、安くて狭い部屋の筈が何故だが今はとても広く感じて、なのに息苦しく感じたおかしな喉をどうやり過ごすかで思いを巡らした。と言うのは所詮戯れ言で、一方でこんなにも弱い、いつかの妹のように砕けてしまいそうなか細い声に何も返せずにいる自分が情けなかっただけだった。オレが今まで恨み辛みを募らせてきた憎い相手は本当は仇でも何でもなかったと知った時、オレはどうしたらいいか分からなくなった。真正面から謝ることも出来なかった。妹の感情をバラバラにした張本人と思い込んでいた相手がその実全くの濡れ衣で、なのに真実が晒されるまでそいつはずっと無意味な償いを続けて俺も八つ当たりを込めて辛く苛んできた。今更真実がどうのこうの知れたところで、本当は無関係だったこいつを放り出せやしないしましてやこいつは旅の中心とも言える核のような存在だったからなおさらどうするべきかが分からなかった。普段、明るく振る舞ってどんな時も前向きに歩いてたこいつが時折俯いては表情を暗くしていたのは知っていた。けどそれは当然の意識だと思っていた。妹を人形同然にした人間。同じ空気を吸って同じ視界に立つのすら最初は嫌で嫌で仕方が無くて、その時々にオレは拳を振るって殴って罵倒して詰って、…本当、今更だ。妹は真実を語れなかったことを泣きながら謝って、本来被害者の側であった筈のアイツは良いんだよと優しく笑っていた。恨んでない、憎んでないとも。…ならオレは?オレのことはどう思ってる?…それだけは怖くて聞けなかった。



でも今、そんなアイツが笑いながら泣いてるのだと思えばオレの胸は張り裂けそうなくらいキツく痛んだ。伸ばし掛けた手を我に返って見つめれば散々酷い言葉を浴びせたオレに本当は誰よりもまっすぐだったコイツへと触れる資格があるのかと思ってしまった。なんて馬鹿なんだろうか。グローブに包まれた拳を握り締めて一人落ち悩む。本当に辛いのはオレじゃなくコイツなのに、世界の敵の命を宿され器にされていたコイツは身体が分離した後に酷く苛まれた。自分が生きた所為で沢山の犠牲を払ったこと、唯一の肉親すら亡くす切っ掛けとなってしまったこと、用済みとなった身に冷たく浴びせられた己が存在の無意味さに意義を問うこと。
(用済みの器)

それは荒々しくも酷く研ぎ澄まされた刃に似ている、呪詛の言葉だ。オレは伸ばし掛けて止めた手を見下ろしながら、苦悩に満ちるアイツの胸中をどう和らげることが出きるか、その資格が本当にあるかどうかも分からぬまま模索した。





闇色の夜に響く啜り泣くような掠れた笑い声を聞きながら。
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2009.02.28(Sat)





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