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author 米 [write]

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啼哭悔悛は時既に遅く


(足主/グロ/死ネタ注意)

あの日の僕は、君が傍に居ればそれでいいのだと確かに思っていた。

僕は君が居ればそれで良いんだよ、と酷薄に笑い彼の頬をなぞった。
白い肌、なめらかな手触りと曲線を描いたその輪郭はまるで手に吸い付くようで心地よく、触れた箇所から淡く熱がこもるように感じて同時にじんと身体が疼いた。けれど僕の腕の中に抱かれながら僕を見つめる彼のまなざしは心なしか暗い。普段はきらきらと星を砕いたように鈍く眩しく輝いているその双眸は今では泥沼のように淀んで生の光を限りなく薄めていた。とおるさん、と嘗て僕の名前を甘く呼んだ彼の声は今は聞こえない。嗚呼、確か喉を潰したのがいけなかったのか。でも、だって、彼が僕以外の名前を幾度も繰り返し呼ぶのがそもそも悪かったんだ。僕はこんなにも彼の名前を呼んでこんなにも愛しているのに彼は僕を見なかったから。だからその目も見えなくして僕以外を呼ばないようにして僕以外の声を聞こえないようにしてしまった。これで君は僕だけのものだよ、とそっと色を抜いたかのような唇へ口付けて、でも返らない応え。そうだ腕や脚の腱も切ってしまったんだと思い出して、それから彼は僕以外の名前を呼ばなくなったのは良いけれど肝心の僕のことも呼ばなくなってしまったのに気が付いたのは暫くしてから。これまで輝いていた双眸がすっかり淀んだ色に変わってしまい艶のあった髪も段々と萎びてきた。滑らかだった肌はやがて腐臭を纏い始めて汚れ筋張り、だらりと糸の途切れた人形のようになったその痩躯を尚も抱きしめながら僕は段々と意識を薄らいで考えるようになった。最早「これ」は彼ではない。僕の愛したうつくしい彼とは違う。けれどこうなってまでもいつまでも手放せずにいるのは一体何故なのだろうか。彼はいつだってやわらかな花の綻びに似た笑みを浮かべて僕のことを見てくれていた。とおるさん、と甘い声で名前を紡いで手を差し伸べてくれ抱き寄せればまるで恥じらうようにはにかんで、その煌めくような灰色の双眸を眇めながらも僕だけを映して形の良いふっくらとした唇で何度も何度も繰り返して僕の望むままの言葉を囁いてくれていた。ただでさえ色白な素肌を尚も強調するかのように彼は白いシャツから覗いたうなじをはっとするような桜色に染めて、僅かに俯きながら「    」と。思い返せば他にも彼との記憶は両腕に溢れるくらいある。初めて出会った日のこと。雨の降る日に傘を借りたときのこと。段々と顔を合わせて会話を交わすようになって来た頃食生活のことをふと話せば驚いたような、呆れたような顔をされたこと。そして次に会う頃には手作りの弁当を渡されて返しに行く度にご飯をご馳走になっていつしか彼を自分の部屋に招くまでになったこと。あまりの散らかりように唖然とすると思いきやなんとなく想像はしていましたからと苦笑されたこと。彼はとても綺麗で、聡明で、年頃の割に礼儀も正しくて家事も完璧にこなしたりとしっかりした子で、でも何処か抜けている、変わった魅力を持った人間だった。僕は彼をひとつ知る度にひとつ惹かれていってやがて彼と相愛になった。それまでは良かった筈だ。でもそこからが間違っていた、いや最初から僕みたいな人間が彼のような子を好きになってしまったのが、出会ってしまったのがそもそもの間違いだったのかも知れない。僕は彼が恋人になってから暫くして彼が僕の知らない場所でどんな風に時間を過ごしているのかを考えてしまった。そしてたまたま見かけた彼と彼の親友が親しげに会話し笑みを交し合うのを見てから僕の中ではぎしりと歯車の軋むような音を聞いた気がした。それからの僕は彼を何かにつけて束縛するようになった。彼が僕以外の誰かと言葉を交わすのが許せない。彼が僕以外の誰かと目を合わせるのが許せない。彼が僕以外の誰かの声を聞いて、誰かに触れるのが許せない。彼は僕だけのものだと毎日そればかり思うようになってしまった。約束していたデートもすべて取りやめて休日はもっぱら僕の部屋で彼を掻き抱いた。幾度も幾度も飽くことなく繰り返し、どれだけ時間が経とうと夜が終わって朝を迎えても、彼がどれだけやめてと泣いて懇願しても僕はそれでも構わず彼を抱いた。そして汚した。気が付けば彼は意識を飛ばしてぐったりと僕の腕の中にいた。雄臭い白濁にまみれた彼はそれでも尚うつくしくて清らかで、僕はそれが無性に悲しくて切なくてただ一度だけ泣いた。僕自身の愚かさと彼の何処までも貫き通された清純さに、そして思い知った。彼は僕のものに一生なりはしないのだと。どれだけ僕が手を伸ばしても僕の汚れた想いでは彼を本当の意味で手に入れることなんか出来ない、彼は優しいからもし目が覚めてもその胸中に芽生えただろう僕への恐怖を押し隠して笑うに違いない。どうしたんですか、と。それを思えばまたひとつ涙が溢れた。(ごめん)(ごめん)(ぼくはひとをあいしたかっただけなんだ)(ひとにあいされたかっただけなんだ)

ぎしり、歯車の音が今度はより大きく聞こえた。



あれだけ愛したうつくしい彼のことを、僕はこんな醜い姿になるまで貶めてしまった。彼の鼓動は今は動きを止め潰した双眸からは蛆が湧いて溢れ常人ならば耐えられないような腐敗臭が辺りを包み部屋に立ち込めている。骨以外は痩せこけて皮と筋とばかりになった乾いた精液まみれのその身体は喉の辺りが不自然にごつごつと陥没していてそれはきっと彼の喉を潰すときに喉仏のある甲状軟骨を傷つけたからだろう。腱を切った腕と脚はだらりとしていて不自然に歪んでいた。あの綺麗だった髪も肌も瞳も声も笑顔もなにもかも、君のすべてを僕は、僕は、僕は、僕は、僕は、僕は、僕は。(僕は、壊したんだ)

あの日の僕は、君が傍に居ればそれでいいのだと確かに思っていた。
けれどそれはいつしか君が居さえすれば、と意味を履き違えるようになっていった。
白い肌、なめらかな手触りと曲線を描いたその輪郭はまるで手に吸い付くようで心地よく、触れた箇所から淡く熱がこもるように感じて同時にじんと身体が疼いた。けれどそれもずっと前のこと。過去となってしまった今は彼の柔らかな笑みに触れることすら叶わなくなってしまった。嗚呼あれが幸せと言うものだったのだ。僕は彼の最期の言葉を必死に思い出そうとした。もうすぐこの場所に部外者がやってくるだろう、その時にはきっと僕は彼と離されてもう二度とこの腐敗した身体すら抱きしめることも見ることも出来なくなってしまうだろうからそれまでは、それまでは。



あれ。彼は、あの時なんて言ったんだっけ。(確か、笑っていた気がするのだけど)
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2009.01.17(Sat)





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