the latest //  案内・作品一覧


author 米 [write]

スポンサーサイト


上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--.--.--(--)



ないものねだり


(893と愛人パラレル:893=足、愛人=主、部下=花、刑事=堂)
(続きません←また)


ないものねだりだとは重々承知の上。激しく揺さぶられる身体とか殴り付けられる顔とか、ぞんざいに扱われて赤く擦り切れた秘部の痛みとか、熱が出てもその男は構うことがなかった。ただ自分は男に体よく抱かれ性欲を昇華させるだけの人間でしかないのだと歪んだ嘲りを向けられたのもまだ記憶に新しい。
愛人とは名ばかりで、自分を所有する足立と言う名の男はこれみよがしにその権限を振り翳して嗜虐の限りを尽くす。外に連れまわすこともなく地下の座敷に閉じ込められたまま息が詰まって気が狂いそうになる。これが本当に人間の受ける扱いか分からないが、人ならざる者としての扱われようであるのは傍から見れば歴然だった。

(此所から出たい)

そんな風に思っていたのは随分と昔の話だった。初めは逃げ出そうと躍起になっていてその度に支配下の人間に捕まってはより酷く抱かれた。抱かれたと言うのはまだ表現が優しいくらいで、いっそ陵辱と言った方が馴染みやすかった。
火傷の跡も擦り傷も打撲の痕も、うっすらとだが残ってもある。何より片足と首に填められた枷が葵を自由にしてくれない。涙も枯れ果てて底が尽いた。ただ喘ぐだけの喉と受け入れる事を強制された空っぽの身体が残っただけで、こんな風になってはいつか飽いて棄てられるだろう。それはある意味好都合な事かも知れないけれど死んだ後の処理はきっと面倒でされないだろうから、ある程度生きたまま外に棄てられるのかもと考えたところで背筋がゾッとした。
別に所有者の足立に愛着がある訳でない。外に出るのが怖い訳でもない。ただ窓も時計も一日の流れを知る物すらない場所で生きて、一体自分が此処に連れられて来て幾日幾年経ったのかすら分からない。その事実が怖くなっただけ。まるで世界から切り離されたような自分の命。自分のことなど誰も知らない世間の喧騒はもしかしたら一番楽な生活場所かもしれないけれど今はそれが一番恐ろしい。誰に知られるでもなくひっそりと絶える命などこの世には五万と溢れ返っているだろうに誰に知られることのない孤独は独特な感触で葵の心を身体を意識を蝕んだ。それに近しいところまで片足を入れているだろうからか。

そこで、震える肩を誤魔化すように葵はせめて自由の利く腕で自分を抱いた。それ以外に自分を温かく包むものは何もないから。いないから。おざなりに羽織った唐紅の着物に締めた帯、大きく肌蹴た胸元は病的なまでに白いがそこらかしこに散りばめられた鬱血と残る傷跡がいっそ生々しい色を映し出していた。それを自分の目で見るたび舌を噛んで死んでしまいたい衝動に駆られるけれど、それをさせないのは抱かれる時と最低限与えられる食事の時以外噛まされたままの猿轡の所為だった。込み上げる嗚咽にやはり涙は出ないけれど、どうせ最後が来るくらいなら温かい腕に抱かれて優しく口付けて欲しいと思う。憎くて憎くて堪らない、あの足立でも構わないから。気が付けばこの場に連れて来られて温もりとは何かを知らない自分に教えて欲しかった。(そんなこと絶対に無理だろうけど)



(…今日も、来ないのか)

あんな男でも葵自身が頑なにならなければもっとずっと優しかったかも知れない。触れて来る肉が薄く骨張った手でも、どうにかすれば、…どうすれば?そんなことを考えてもどうせ自分は愛せる訳なんてないのに。
それより先程から妙に上から響いて来ている物音が気掛かりだった。何日か前から上階は地下にいる葵にも分かるほど慌しさを見せていた。葵はまた抗争でも起こるのか何かと思いながら青白い瞼をゆっくりと閉じたが、その様子に怯えた雰囲気はない。どうせ地下にあるこの場所まで誰も来はしないのだからと知っているのだ。
足立と、足立の部下で葵の世話役を命じられている花村と言う外見的にも年の近さを伺える若衆以外は誰一人此処には来たことがないのだから。基本一日に三回食事を運び着替えと事後の後処理を手伝う花村は唯一葵に触れるのを許された男であり、足立の外出時に用事がなければこっそりと暇を見つけて葵に会いに来ていた。笑顔がよく似合い、この血生臭い荒んだ極道の社会に身を投じているなど到底思えないだろう人柄をしている男で葵の良い話相手とも言えた。それも最近では上の騒ぎによって必要最低限の回数しか姿を見せなくなっているけれど。

それ以外の部外者がもし来たとしてもきっと殺されるか慰み者で犯されるだけだろう。もう、それで良いかも知れない。もう生きる執着なんて、自分には何処にもないのだから。

「…花村、やっぱり来ないな…」

眠ってしまおうか。唯一安らげる穏やかな夢の海に身を投げて。その間にも本当に安寧の眠りへと就ける。上質な布団に身体を横たえればもう意識は闇の中だった。



「   」



そして意識が一気に落ちる最後、耳が拾ったのは男の野太い荒々しい声といくつかの銃声。そして堅く鍵の掛けられた戸が開け放たれ更に二重となっている鉄の重い扉が開く音だった。
スポンサーサイト

2008.11.28(Fri)





/
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。