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author 米 [write]

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知解に果てしなく 二


(プランツドールパロ:主人*御堂孝典/ドール*佐伯克哉)
(オリキャラ注意)


「プランツ?」

MGNジャパン本社ビル。
此処、商品企画開発部第一室のオフィスには場違いな単語が零れた事に企画書に目を通していた中、美麗ながら神経質そうな眉を寄せた男が一人。
御堂孝典は仮にも商談の打ち合わせ中だと言うにも関わらず全く無関係な言葉を発したビジネスパートナー兼友人の矢崎に不快だと言わんばかりの態度を隠しもせずに鼻を鳴らし、ばさりと書類をローテーブルの上に投げ出し如何にも高級に見える黒い革張りのソファに深く身を沈めた。

「あぁ、最近俺達の間で流行ってるんだよ。お前も聞いた事ぐらいはあるんじゃないのか?」

「ふん、確かにそう言った聞いた事はある。だがよりにもよっていい歳をした男が今時人形遊びか?…お前達も大概暇人のように見えるな」

「まぁまぁ、そう言うなって。相変わらず堅い奴だなお前は…それにプランツは普通のお遊び人形とは違うんだぞ」

「私には人形などどれも同じに思えるがな」

冷めた風に口にする御堂の様子に特に気を害した風もなく、矢崎は苦笑交じりに投げ出された企画書に引かれたアンダーラインや辛いコメントに目を通しそれらに考える素振りを見せつつ尚も会話を続けて行く。 この気難しい友人は昔から西洋のアンティークやワインについて興味を深くしていたから、試し程度に最近耳に入った話を出してみたがどうやら女のままごとのような聞こえがあるその類いには興味が酷薄なようだ。まぁ、確かに男が人形遊びなど普通であれば一歩二歩は退くものだ。だが自分が知るドールはそれとは一線を画した珍しいものなのだと首を振り、一度目にした事がある美しい人形を瞼の裏に蘇らせ笑みを浮かべた。

「プランツはその名の通り植物と人形を掛け合わせて出来た、人よりも美しいドールだ。一度此方の商談相手の屋敷に呼ばれた時目にした事があるが、アレはビスクやブライスなんて目じゃないくらい魅力的だった…お前にも見せてやりたいくらいだったよ、御堂。それにお前抜きでワインバーに集まった時他の奴に話したら意外や意外、結構食いついて来てな。どれほどの美しさだったか、ドールは目覚めていたか、根掘り葉掘り聞かれた」

「私抜きで飲んだのか、お前達は…全く、しかも植物で出来た人形?人よりも美しい?…目覚めが何だの私には一切興味がない事だ」

ふん、と再び鼻を鳴らした御堂に矢崎は聞き終えた後フッと溜め息を吐き肩を竦めた。
非現実な事を嫌うこの堅物は昔から現実にしか興味がなくワイン以外の娯楽を良しとしない仕事人間だ。過去と変わらずそのままでいるのは確かに美徳かも知れないが、此処まで夢がないのではいつかワーカーホリックになって(もしかしたら既に片足を突っ込んでいるのではないか)過労死するのは近いかも知れない…そんな物騒且つ失礼極まりない事を内心思い、目を通し終えた書類を荷物にしまうとソファの肘掛に肘を突いて目の前に不機嫌な面を晒している御堂をまじまじと見遣る。

今年で32…否、正確には33になるのだったろうか。自分達大学時代を共にした学友はお互いそれぞれの道を行く事になり会社を興したものもいれば大手に就職しキャリアに上り詰め部下を抱えるようになった者、妻を迎え子に恵まれそれなりに幸せと言える家庭を持った者もいる。自分はその内の所謂キャリアに当たり御堂もまたそれに属されるのだろうがどちらもまた独身貴族を謳歌している最中。
そろそろ家庭を持っても可笑しくない年齢であるし自分も近い内結婚を考える相手を見付け、半年もしない内に籍も入れて式も挙げる予定である。勿論その時には学友達の中に御堂も招くつもりでいて、そうなれば自分の今の独身貴族時代も終わりを見せている。
だが、この御堂と言う男は結婚願望はおろか付き合う女の影すらなかなか見られない奇異な存在だった。本人曰く特定の相手を捕まえてしまえば自分の生活ペースを狂わされ仕事にも支障が出るとの事…つくづく仕事馬鹿である。
だからきっと性欲が溜まったその時にだけ後腐れなさそうな女を選んで一夜だけを灯すばかりなのだろう。しかしそれでは生活に潤いと言うか、ハリがなさ過ぎではなかろうか?小さな親切大きなお世話とも言うしこれは相手にとってお節介かも知れないが、矢崎にしてみれば些か寂しい人生だと思うのだ。 これからも自分がそうなるからかも知れないが疲れて家に帰っても出迎えてくれるような温かい存在がいない事は思ってみると実はかなり心寂しい。
誰かの為何かの為に仕事を頑張れると言う心理もあるのだし、毎日の終わりがワイン漬けのようなそれは見ていて痛くすらある。別に結婚しろ、と偉ぶって言えたものではないがせめて何か大切に思えるものでもあれば良いのに…自称友達思いの矢崎は御堂相手によく考えてしまうのだった。

実は、今回キャリアの矢崎自らが商談に出て来たのもそれを思っての事だった。
以前、自社での商談で取引先の相手の屋敷に呼ばれたのも本当だがその時に目にしたドールの美しさは正に心を揺さぶられるものであった。取引相手の社長もドールの事になると真面目な表情や雰囲気を一変させ、普段とはまるで異なるとても穏やかな様子で愛しそうに傍に寄るドールを見つめ頭を撫でていた。運命の出会いだった…そう口にしていた通り、主人に選ばれたその人はドールが自分の為に瞳を開いてくれた事に酷く感激し、当時感じた筆舌し難いほどの感動は今も鮮明に脳裏に焼きつき、向けられた花のような笑顔も覚えていると言っていた。

『私はこの子が自分の帰りを待っていてくれるからこそ自分の仕事に精が出せるんだよ。この子と出会わなければ私はきっと今のような高い地位に立っていなかっただろうね』

そして思ったのだ。生真面目で仕事以外の娯楽を良しとしないように見えていた社長とよく似た雰囲気の御堂も、人の心を変えてしまえるような魅力を秘めたドールに出会えば良い意味で変わるのではないかと。本当に勝手だと思う、だがそれくらい心配だった。御堂が。…まぁ結果は惨敗も良いところのものだったが。

「はいはい…分かったよ、でもお前には良く似合うものだと思ったんだがなぁ。あ、違う違う、そう言う女々しい意味でなくてだな。つまり人を良い方向に変えてしまえるって意味で…」

「…その話はもう良い。お前も忙しくない身ではないのだろう、打ち合わせも終わった。なら早く帰れ」

「うわ…そう言う事まで言っちゃうのかお前って奴は…」

零れる溜め息は今更収拾がつく事はなく、片眉を上げてその紫掛かって見える黒い瞳に睨まれてしまうと引き攣った笑みしか出て来ない。
しょうがない、諦めよう…そもそも始めから思えば一辺倒な頭の持ち主だったのだ。自分がとやかく煩く言ってもそれは逆に意固地にならせるだけかも知れない。なぜなら御堂孝典と言うのはそれだけプライドが高く自分の言う事を否定されるのがあまり気に入らない性格だからだ。長い付き合いで理解していた筈なのに今更思い出すとはなんと言う事か。
立ち上がって荷物を片手にドアノブに手を掛けると既にデスクに戻った御堂は此方に見向くもしないで早くも次の面会予定を電話で秘書課に尋ねていた。矢崎は天井を見上げどうしようもないな、と首を振ると結局そのまま御堂のオフィスを出た。

(でもな、御堂。今じゃ昔の学友で俺とお前くらいなもんだぜ、家庭を持ってないってのは…俺もすぐ結婚するが、そしたらお前一人が取り残されるだろう)

(寂しく、感じる時はないのか?)

ぱたんと閉めたドア越しには御堂の声が相変わらず聞こえる。そして視線の先にあるエレベーターから出て来た次の面会相手と擦れ違いこんな時にまで彼の多忙さを深く知る羽目となり、矢崎の心配はやはり積み重なっていくばかり。

(俺の性格って本当に損だよなぁ。自分で言うのもなんだが人が良すぎるのか?)

早く御堂にも大切に思えるものが出来たら良い。それが人でも人形でも、そうすればきっと人間らしくなるに違いない。鉄の仮面のような顔ばかりを浮かべる仕事人間の友人に細やかだが願う事。
矢崎は癖のように零れる溜め息にいかんとばかりに首を振るい、幸福を取り逃がさないようMGNを出たのだった。


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2008.07.03(Thu)





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