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author 米 [write]

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よろこびのうた


(携帯サイトの拍手お礼。新婚を満喫する二人)

生まれつき低血圧な為か朝に弱い頭をどうにか働かせ、克哉が起きて直ぐにするのは先ず身なりを整える事と朝食の支度をする事の二つだった。

普段洋食が好みな恋人兼旦那様を持つ者としてはそれも確かに美味しいとは思うのだが、それでも朝はやはり和食が一番食が進むしバランスが取れた物が多いと克哉は思う。その為か、週に一度や二度は必ず朝食に和食を出す事があり一般家庭お馴染みの味である肉じゃがの存在すら始めは知らなかった御堂の口に合うよう、日々工夫を凝らした料理を出している。
お陰で最初の内は料亭に出るような和食メニューしか知らなかった御堂も克哉が腕を振るって作る料理ならば和洋中問わずどれも美味しそうに箸を伸ばすし、この前出した紫蘇とタラの芽の天ぷらと人参牛蒡の掻揚げ、茸の吸い物に菜の花の和え物と言う所謂日本酒のアテに近い品もワインを好む彼の舌はどれも美味しいと笑ってくれた。

昨晩の内に予めタイマー予約をしておいた御堂購入の高級炊飯器を開けば一粒一粒がふっくら艶やかに炊き上がった白米がほこほこ白い湯気を立ち上ぼらせている。
それを満足そうに確認してからきちんとエプロンを付け、同じく昨晩下拵えを済ませて置いた蜆を砂を吐かせたボールから取り出しダシを取った鍋に入れて湯がふつふつ沸けば味噌を溶かして煮立つ前に火を止める。そうしている内に今度は脂の乗って赤々と身の輝く鮭を二切れグリルで焼き、焦げ目が付き過ぎないよう気を付けながら更にコンロで卵焼きを作り、甘い物が得意でなく、かと言って味の濃い物も好かない御堂はどちらかと言えば関西のような薄味が好みなタイプだった為、ダシが主に効いたほんのり甘い卵焼きを綺麗に作るのはなかなかに苦労したが慣れた今では簡単なものだ。
そして最後にほうれん草と胡麻の和え物を作って小皿に盛り付ければ他に出来上がった食事も皿に載せダイニングテーブルに運ぶだけ。

こうして出来上がった昔ながらの和の朝食の香りが寝起きで小腹の空いた鼻にはとても食欲をそそりもう何分もしない内に御堂はきっと起きて来るのだろう。
おはよう、とあの低くて甘い響きを持ったバリトンで自分に声を掛けながら。

「ふふ、御堂さん早く起きて来ないかな。それとも起こしに行った方が良いのかな」

愛する人が口にする物を自分で作れる事がこんなにも嬉しく、そして幸せな事だとは今まで知らなかった。二人で暮らす事になるまでは寂しい一人暮らしで恋人もおらず大体が簡単な自炊とコンビニ商品を織り交ぜたような食生活しかしていなかったから、誰かの為に、誰かの喜ぶ姿の為にといつもはまだ寝ている時間に起きキッチンに立つと言う事はなかったから。以前同僚の家に呼ばれて手製のカレーをご馳走になったけれどあの時もそうだった。
自分一人で済ますだけの食事より誰かと共に食べる食事の方が美味しかった事。ならば腕を振るう最中も同じように嬉しくて楽しくて笑顔を見た時には更に胸には喜びが溢れるに違いないと。

(それが今のオレには分かる)

「別に作るように言われてる訳じゃないんだけどな…やっぱり…」

初めて美味しいと言ってもらった喜びを忘れたくない。これからもあの人の笑顔が見たい。だから。
ついつい浮かんでしまう考えは照れ臭くて味噌汁をお椀によそう中、熱をほんのりと帯びる頬に緩む目許を伏目がちにする。

「やっぱり、何なんだ?」

「ひぇ…っ?!」

不意に後ろ掛けられた声に飛び上がるまでは行かなくとも驚いてお椀の中身を零しそうになる。
ドキドキと鼓動を早める克哉はそれをなんとか防ぐと慌てて振り向いた先に目を覚ました御堂が悠然と笑みを浮かべ小さく喉を鳴らしていた。

「み、御堂‥さん」

「くく…おはよう、しかし大丈夫か?どうやら驚かせてしまったようだが、火傷などしていないだろうな」

「い、いえ…平気です。えと、あの…おはようございます。…食事はもう出来てるので席に着いていてくれますか?すぐに運びますから」

「いや、それくらいは私がやろう。毎日支度をしてもらっているのだからそれくらいはさせてくれ」

見た様子では既に洗顔や着替えを済ませたらしい御堂はスーツのスラックスにワイシャツを着た格好をしていて後はネクタイとジャケットを羽織るだけだった。いつも通りきちんとボタンを留められたシャツは今日はどうやら色付ではなくパリッと糊付けが綺麗にされた染みや皺一つない真っ白なシャツで紫掛かったように見える髪もいつも以上に決まっていて、本日の会議に向けての意識の高さをそれなりに窺わせる気がした。そしてふわっと微かに香るフレグランスはいつもと同じ、御堂に似合った物だったがその整った容姿はいつまでも慣れなくて見る度にとくんと胸が鳴ってしまう。
克哉は昨晩の行為を咄嗟に思い出してしまい再び頬に熱を感じると慌てて顔を俯け、御堂の申し出に小さく頷くと自分も炊飯器の中に炊き上がったご飯を茶碗に盛り付けテーブルに運んで行く。それを口に出さないものの密かに盗み見ていた御堂はくつりとまた一つ笑み、残りの品を二人で運び終えた頃には向かい合って出来上がった本日の朝食を前に手合わせして箸を取る。

(全く、本当に何処までも可愛らしい奴だな…家事も上手いし気立ては良いし)

「ほぉ…今日はきみが得意の和食か。これはまた美味しそうだな」

「っ…そ、そんな!…御堂さんみたいな人にはあまり食べ慣れない物でしょうけど…でも、そう言っていただけて嬉しいです」

「私は世辞でこんな事を言うほど出来た人間ではない。きみが作る物は確かに珍しいが、だがこれが一般で言う家庭の味なのだろう?それならば馬鹿に出来た物ではないな…きみの作る物は全て私好みだから」

「御堂さん…そんな、…ありがとうございます」

ふわりと零れんばかりの華やぐ笑みが朝から見られ、御堂は益々機嫌が良くなる。御堂の漏らす言葉一つ一つに細かく反応し一喜一憂する恋人兼妻が、一番大切で愛おしく思えるこの瞬間が何より幸せで堪らなくなるからだ。
お互い、相手が知らぬ所気付かぬ所で似たような幸福を感じている。克哉は愛する御堂の見せる優しい言葉と笑顔に、御堂は愛する克哉の謙虚で控え目な性格が時折見せる本当の笑みを見た時に。自然と同じように惹かれ合っていると言うべきだろうか。それならば良い。無自覚に、無意識に、こうして穏やかな時を共に過ごせているならば。

そうしてどちらともなくまた一つ笑い合うと冷めない内に、と朝食を始めた二人。
アルコールを飲んだ翌日には良く効く蜆の味噌汁を啜る御堂に美味しいですか、と尋ねれば無論だと返される答えに胸は暖かくなる一方で窓から差し込む眩い朝日が心地良い空間を更に暖めた頃、御堂と克哉の二人はその日もまた共にMGNへと出社するのだった。



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2008.07.18(Fri)





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